組長の前で大見得を切ってしまった戸田は、その実焦っていた。
それ以前に彼が何の算段もなく勝算もないまま大見得を切ったのは、焦っていたからだった。
それは未だに自分がなんの手柄も立てていないことに対して、だ。
政府による都市再生計画により、魔夜火紫は強制解体され、行き場を失った自分を拾ってくれたのは、桜劉会だった。
その時から分かっていた。
組が本当に欲しがっていたのは羅刹だけだ――――――ということに。
でも俺だって――――――……
俺だって―――…
当時はあいつの右腕として、そして魔夜火紫を纏め上げたリーダーであったにもかかわらず、俺は小物として扱われた。
俺だけじゃない。あいつの前ではどんな男でも小物でしかない。
幹部候補として迎えられこそはしたが、それは単に頭をしていた俺のメンツを保つための一時的措置にすぎない。
組に入ったのが丁度1年前。
地道な薬の販売と金の回収になんとか対面を保ってはいるが、未だ幹部候補生というのは、それは見下されてもいなければ、なんの評価もされていないということではないのか。
このままでは自分は販売員として、ただのセールスマンとして組に使い捨てられるだけだろう。
ここで何か大きな手柄をあげ、自分の地位を盤石なものにしなくてはならない。
だから
磯姫――――
それは自分の名をあげるには不足ない相手だと思った。
神羅雪に関しては発足当初から情報を集めてはいた。
当時、神手黎羅の総長と副総長をしていた神楽歌織と七種いつき―――、特殊な剣術を使う連中で、女のくせに個体の戦闘能力は俺は勿論、悪鬼の特攻隊長・火賀(現在桜劉会所属)を優に凌ぐ。
実際、悪鬼と神手黎羅の抗争期間は、桜劉会のそれよりも長い。
というより、羅刹率いる悪鬼にそこまで粘った連中は奴ら以外にない。
事実、あの女たちには俺を含め、誰一人敵わずに秒殺されたのだ―――――――
ただ一人、羅刹を除いて。
羅刹に負けた彼女たちを輪姦し、思う存分中出ししてやったから、恨みは晴らしたはずだが、女相手に手も足も出なかったという事実に、プライドは今もまだズタズタに引き裂かれたままだ。
あの時は羅刹がいたから勝てた、が―――――、今は。
今思えば、あの二人なら当時の輪光を統一してもおかしくない実力を備えていた。
それをしなかったのは、単に彼女たちがそんなことに興味はなかった、というだけのことに他ならない。
まあ、もし統一したとしても羅刹が現れるまで、の話なのだが。
神手黎羅の総長・神楽歌織、副総長・七種いつきは輪姦された後、二人は共に姿を消した。
魔夜火紫の初代頭・空見翔の死を知った神楽はそのまま行方知れずとなったが、七種いつきは別の場所で名をあげ磯姫の異名を伴って伝わってきた。
近県のレディースを纏め上げ、無数の族潰しをした挙げ句に、玲瓏会というヤクザまで潰した。
その磯姫が輪光に舞い戻ってきたのだ。
現在、輪光でかなりの人数を集め玉石混淆にはなっているようだが、その中核は粒ぞろいとみて間違いない。
それに現在その幹部の中にはあの神楽歌織の妹―――よりにもよって輪高に入学してきた―――神楽羽織がいることも確認されている(俺の卒業と同時に入れ替わりだったから、俺とぶつかることはなかったが)。
そう、あの時、空見が輪高の頭に1年女を推薦した瞬間、俺の頭の中に真っ先に浮かんだのはあの女の妹だった。
そしてすぐに俺の頭の中に一つの疑惑が芽生えた。
空見と神楽の謀略がありありと浮かんできていた。
羅刹を殺ったのはこの二人かと―――――――――――
俺はもう殆ど確信に近い思いで拳を握りしめ――――――
結局、空見の口からでた名前は全く違う名前で、その時は事なきを得たのだが………。
一応、入学当初から気にはかけていた。
神楽の妹はてっきり悪鬼と抗争する腹積もりだと思ったからだ。
姉の復讐の為とはいえ単身乗り込んでくるその態度に正直驚いたが、探りをいれたら剣術を極めていた姉と違い、妹の方はただのハンピーで、挙げ句お姉ちゃんの通った学校に通いたいというどうしようも無い理由だった。
いつまで経っても噂にもならず、放置されていたのだが――――……
今になって――――……、あの磯姫と手を組んだ………。
やはりあの時、危険な芽は摘んでおくべきだったのだ………。
二度と逆らう気が起きないよう、骨の髄まで犯し抜いて―――――――……
そしてあの時―――空見が輪高の頭に推すほどの女―――、羅城せつら。
一時は征関で30人を虐殺したという噂もあがった。
まあそれは眉唾物―――とは思うのだが、もし本当にそいつが羅刹の妹だったならあながち無いとは言い切れない。
そして俺はこれから、その磯姫、神楽の妹、羅城の妹、の3人と戦わなくてはならないのだ。
一切の手抜きはできない。
そして正面から戦って勝てる相手ではない。
当時は羅刹がいたから姑息な手段はとらなかったが、
俺はもう大人だ。
俺には俺なりのやり方がある。
幸いにも俺は新しい武器を手にしている。
麻薬という―――、とても強力な武器を。
この一年、舎弟たちの上前をはねて溜め込んだ軍資金で、ある程度の薬は自分の裁量で動かせる。
将を射つならまずは馬から、だ。
神羅雪―――――
確実に、堅実に、その足元から、完全に潰させて貰おう―――――――――――
七種いつき
どれほど強くなったかは知らないが
神楽、羅刹の妹もまとめて
俺のモノを咥えさせ
ぶちこんで
啼かせてやるぞ
必ず、
俺のプライドに賭けて
ビッチ共が
股間を洗って待っていろ――――――!!!
ふははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっはははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっはははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっはははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっはははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははっはははははははっははははっはははははははっはっははははっはははははははっははははっはははははははっははははっはははははははっは―――――――――――――!!!!!!!!!
第72話:戸田
終わり