「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――!!!!!」
陵辱の地獄絵図と化していた山道に、絶叫が響いた。
男たちが一斉に振り向く。
私はゆっくりと立ち上がった。
あはは。
食いちぎってやった。
男のものを。
プッ――――――――――――
私は足元で転がる男の顔に男根を吐き出し、腹を蹴り飛ばした――――――――――――
男の体がまるでサッカーボールのように弧を描き、道路脇の草むらへと突っ込んだ。
「あああ―――!?なんだあっ―――!?」
「おうっ、どうしたっ―――!?」
「なんだよ?何が起きた――――――!?」
そこかしこからあがる怒号。
汚らしいものを慌ててしまい込み、必死にベルトを締める様の無様さといったらありゃしない。
私はなぜかそこにいる無数の男たちの一挙一動を手に取るように把握していた。
「あはははっはははっはははっはははっはははっはははっははは――――――!!!!!」
私は嗤っていた。
喜びに打ち震えていた。
復讐という名の喜びに。
私たちを踏みつぶそうとした、喰い漁ろうとした男たちを、組織を、権力を、それらを破壊する喜びに―――――――――――――――!!!!
私めがけ、不意に飛来した銃弾が―――――――――――
すぐ手前の空間で止まっていた。
私は<手>を開き、掴み取ったそれを眺める。
それは私の肉体の延長に顕れた―――<手>。
私はその銃弾を遙か彼方、闇の中へと弾き返した。
そこにいた誰一人、何が起きたか分からなかっただろう。
私以外は。
私は歩を進めた。
左右から殴りかかってきた、体格差2倍はあろうかという男たちを私は触れもせずに吹き飛ばす。
男の一人が銃を構えた。
「おい、やめとけ!!」
「大丈夫、殺しはしませんよ」
ドンッ―――――――――――――――――
男が私の足元に発砲する。
それでも私の足は止まらない。
パンッ―――――――――パンッ―――――――――パンッ―――――――――パンッ―――――――――パンッ―――――――――
銃声が何発も響く。
最初は足を狙っていた銃口がどんどんあがり、最後は頭を狙ってきていた。
男が13発の銃弾を撃ち終えたとき、他の男たちも一斉に銃を抜いた。
「あははっははははははっははっははははははっははっははははははっ――――――
――――――――――――――――――――――!!!!!」
私は銃弾が舞う中、手近な男へと向かって駆け出した。
足元に張り込み、下から腹に思いきりぶちかます。
「ゲボオッ――――――――――――――――――――!!!」
男が体をくの字に曲げ倒れた。
血を吐いて地面の上をのたうち回る。
ぶつかりそうになったその体を、私は何メートルも彼方へと蹴り上げた。
<脚>を使い、大きく跳躍して次の獲物へと進む。
僅かに反応した男の腕を掴み取り、捻りそのままへし折る。
ついでにもう一方の腕も。
「あはっあはははははははははっっ――――――――――――――――――――!!!」
気持ちが良かった。
最高の気分だった。
女を嘲り、弱い者を喰い物にしようとした男を壊すのは。
セックスなんかよりもずっとずっと、何倍も気持ちが良い――――――!!!
股間を蹴り上げ、金的も潰しておく。
「なんだ―――!?
なんなんだあいつは――――――――――――――!!!
何が起きている!!
誰か、あの女を止めろ――――――!!」
今頃になってようやく、親玉が叫んだ。
「あんたは一番最後に料理してあげる――――――――――――――」
私はふと、彼の足元に跪いたままの女に気付いた。
「いつきさん。
こいつら皆殺しにしましょうよ」
「せつらおまえ、何を――――――――……」
「そうか、この女、羅城の―――――――――!!!」
男の決断は早かった。
すぐ足元のいつきさんに銃口を向け―――――――――
パンッ――――――――――――――――
発砲した。
「ぎゃあああああああああああああっ―――――――――!!!!」
銃声と同時に男が呻いた。
銃口を向けられた瞬間、いつきさんがその手首を捻ったのだ。
自分で自分の足を撃ってしまったやくざの親分が苦痛に呻き、地面を転がる。
私はその光景に口元に手を合わせて喜んだ。
「流石いつきさん♪ 素敵―――♪」
私は駆け、男へと襲いかかる。
その鼻を潰し、腕をへし折り、内臓を破壊する。
バンへ逃げ込もうとした男めがけ、壊れた男を投げつける。
バンの上から奇襲を掛けたつもりだろう男の攻撃を躱し、足払いとともに両足をへし折る。
ゴキッ―――――――――
「うぎゃあああああああああああああ―――――――――!!!!」
小気味良い音の感触と叫喚に、思わず零れてしまった涎を手の甲で拭い、私は不快感を感じた。
いつの間にか私の手は液体で滑っていて、それが頬についたのだ。
ヘッドライトに照らしてみるとそれは真っ赤だった。
汚らしい男の血が付着していたのだ。
懸命に服で拭っている私を、別のバンのライトが捉えた。
どうやら車ごと私に体当たりをかますつもりらしい。
私は嗤った。
<手><足>そして<胴>を出し、衝撃に備える。
ドンッ――――――!!!
私に突進してきたバンにぶつかられた別のバンが横転し、その車体を路面へと転がした。
私にぶかってきたバンはフロント部分を大きくへこませ、止まっていた。
「くぅぅ………」
私は苦痛に顔を歪ませた。
この<力>の程度を識るいい実験材料を提供してくれたとはいえ、かなり痛かった。
これはきついお灸を据えなくてはなるまい。
私は横へ周り、運転席のドアを引っぺがす。
エアバッグの衝撃で既に気絶していたがそんなことは私には関係が無い。
私は男を引き摺り出し、その左手をとり、指を一本ずつ外側へ折っていった。
それから右手も同様に。
ふふふっ♪
ポキポキと骨の折れる感触が快感だった。
あとは両肘と両膝と、鼻と肋骨辺り、勿論、金玉も潰しておかなきゃ。
男を破壊する快楽に没頭してた私の腕を、横から伸びた手が掴んだ。
「せつら、もうやめろ」
「何、言ってるの…………?
離して、いつきさん」
「もうやめるんだ」
「やめる?分けが分からないよ。
やだなぁ、いつきさん。
まさか自分が何をされたのか、もう忘れちゃったの?
羽織が、悠理が、みんなが、わたしが、こいつらになにされたか、もう忘れちゃったの?」
「もういい」
「離してよ、離さないと――――――――」
「せつら―――!!
あたしはこいつらがどうなろうと知ったこっちゃない!!!
でもあんたを殺人鬼にするわけにはいかないんだ――――――!!!」
「離せと言っている―――――――――――!!!」
私は<腕>で彼女を振り払った。
避けられた――――――――!?
「せつら!!!
もうやめるんだ!!
うちらの勝ちだ、それでいいだろ――――――――――――!!」
「はぁ―――――!?
私……、知ってるんだよ?
いつきさんがなんで磯姫って呼ばれてるのか。
それは相手を完全に潰したのに泣こうが喚こうが謝ろうがどんなに懇願しようが、
その血の最後の一滴まで啜り続ける、そういう人だからでしょ!?
いいじゃない。素敵だよ。
いいんだよ。
だって私たちが最強なんだから――――――――――!!!
それに先に喧嘩を売ってきたのはあっちなんだからねっ!!!」
いい気分に高揚した私は眉をひそめた。
すぐ目の前で彼女が木刀を構えたのだ。
「はぁ?
分け分かんない………。
まあいいよ、こいつらを壊す邪魔をするっていうなら、たとえいつきさんでも――――――」
私は彼女に向かって跳躍した。
<腕>を伸ばして薙ぎ払う、が躱された。
袈裟斬りに振り下ろされた木刀を<手>で掴み、そのまま力任せに引き上げ、吊られて浮いた彼女の体に<拳>を打ち出す。
が直前、木刀を放棄していつきさんが離れた。
間合いが読まれている――――――?
私でさえ、よく分かっていないのに?
ただこの<感覚>だけで動いているのに――――――
いつきさんが構えた。
獲物はない、素手だ。
馬鹿らしい。
素手では話にならない。
リーチだってこっちの方が断然長いのに。
まあいいや。
私は<足>で低く跳んだ。
彼女の体を捕らえようとしたけれど、既に彼女の姿は無く。
私の右後方へすり抜け、離れている。
私は落ちていた銃を<手>で拾い上げ、後ろから彼女へと投げつけた。
が直前に前方に跳んで避けられた。
いつの間にか彼女の手には木刀が。
そのまま彼女はバンの影へと隠れた。
私はイライラしてそのバンに思いきり<体>当たりをかました。
気付いた時にはもう回り込まれていた。
背後からの直撃を私は<背>を出して耐える。
すぐに<腕>を振ったけれど、彼女はもうそこにはいなかった。
「はっ。どうなってるんだか―――――――…」
5メートルは離れた向こうで、いつきさんが呟いた。
「ちょこまかと―――――――――――――!!!」
私は<両腕>を大きく広げた。
彼女は速い。
ならもっとリーチを伸ばせばいい。
この距離ならどこへ逃れようと、確実に彼女を捕らえられる。
私は地面を蹴った。
直前、私といつきさんの間に、一つの影が飛び込んできた。
「せつら――――――!!!!!」
「悠理―――!?」
慌てて<腕>を引っ込め、<足>を前方に突き出して制動をかけた、私の首を、
横薙ぎの一閃が斬り落と
されたかと思った。
私の首筋のぎりぎりのところで、いつきさんの木刀が止まっていた。
ぱんっ――――――――――――――――――
思いきり頬を叩かれた。
「せつらの馬鹿っ!!!
羽織が怪我してるんだよ!銃で撃たれたんだよ!?
美香さんだって!
それなのになんでいつきさんと喧嘩してるの!?仲間を助ける方が先でしょ!!!」
「あ、うん、ごめん……………」
既に神羅雪のメンバーは撃たれた羽織と美香さんをバイクに乗せていた。
「いつきさん、ごめんなさい……」
「気にするな」
私が謝るといつきさんは大して気にした風もなく私の頭にぽんと手を当てた。
私は羽織の元へと駆け寄る。
「羽織、大丈夫?ごめん―――――――」
「へっ、流石せつら、あんたはほんとうちの期待を裏切らね――――――」
彼女が呻きながら笑った。
「純丘さん、羽織を――――――――――――」
「ひぃぃ――――――――――――」
よろしくお願いしますと、言おうとして、しかし私はその先を言えなかった。
突然、悲鳴をあげられたのだ。
私は見てしまった、彼女の顔を。
その顔にははっきりと書いてあった。
化け物――――――――――――――………と。
辺りを見回すと、神羅雪のメンバーたちは皆顔を逸らした。
それは明確な、あまりにも明確な、拒絶の態度だった。
怯え、恐怖、嫌悪、拒絶――――――――――――――
そっか―――………
周囲には沢山の人が倒れていて、皆、地面に転がっていて、
それはどれも惨たらしく、酷い有様で――――――――――――――…………
これ、全部私が―――――――――――――――――………
「おい、純丘、早く病院へ連れて行ってやれ」
「は、はいっ」
いつきさんに促され、純丘さんがバイクを発進させた。
戦いは終わった――――――――――――――――――……
その跡は、
沢山の血に塗れて――――――――――――――――――――――――――
第74話:戦争
終わり