闇――――――




















真っ暗で、ただ、真っ暗で、





私の視界は完全に闇に閉ざされていた。





何も見えない。





手も動かせない。





足も動かせない。





何度か気を失った所為で、あれから一体、どれだけの時が経ったのか分からなかった。
まだ数時間だろうか、それとももう日は昇っているのだろうか。

不自然な格好で拘束されている所為で体中が痛かった。





トイレに行きたいと言ったら、その場でしろと言われ、私は父の目の前で排尿させられた。

リビングに自分の尿の匂いが立ち込めるのが酷く不快だった。
しかしすぐ傍に感じる父からは荒い息と共に興奮が伝わってきていた。





縛られていることに恐怖はなかった。


だっていざとなれば<力>があるから。
こんな拘束、私にとっては拘束ですらないから。


私は一切の抵抗をせず、父の縛めを受け入れ、陵辱に耐え続けた――――――……





私はただ祈っていた。



一心に願い続けていた。



父が、私に、気付いてくれることを。





私の姿に、





私のことを、羅城せつらのことを思い出してくれること――――――――――――――……










なのに………


















































ゾクッ――――!!!!






気付いた時には遅かった。





おぞましい気配が体中を駆け巡った。





あの時・・・と同じ―――――――――――――――――――――!!!










「んんっ―――――――――!!!!
 んんっ――――っっ―――――!!!!んんっ―――――――――!!!!」



離して―――!!
離して―――!!


私は精一杯身体を揺らし、ガチャガチャと音を立てて訴える。

すぐ傍に父の気配は感じている。

しかし口には変な拘束具をつけられているため、言葉にならない。
私は自分の涎さえ垂れ流し続けていた。



「どうしたんだひかる、そんなに暴れて。
 ああ、今度はうんこがしたいのか?」

「んん―――――!!!!!!!
 んんんんっ――――――――――――――!!!」

「よしよし、じゃあ今洗面器を持ってくるから、待ってるんだぞ」





懸命な抗議も虚しく、父がリビングを出て行く。

玄関が開く音が聞こえ、父の驚きの声が響きわたった。



「な、なんだ君たちはっ――――――――――!!?」
「どもー、夜分遅くにえろうすんまへん―――」
「ウッスー!!」





どかどかと、家に踏みいる音。
誰が入ってきたのか、もう分かっていた。





だって私の<力>が発現しないから―――――――――――





「あっれ〜〜〜!!!
 なんか嬢ちゃんすっごい格好しとるやんーwwwwwww」

「おい、君たち、ここは私の家だぞさっさと出て行け!
 警察を呼ぶぞ!?」

「黙って”ろ” クソジジィ―――!!」



父の小さな呻き声と、同時に何かにぶつかって、倒れる音、もの凄い音がリビングに響いた。



「んんっ――――――!!!?」



お父さん!と叫びたかったけれど、言葉にならなかった。



私のすぐ傍に気配が近づく。

両腕は頭上で縛られ、目隠しをされ、強制的に足を開かされている私は、自分の股を閉じることさえ、できない。



「なぁなぁ、あんた鬼の力あるやん?
 なのにこんな状況にいるっちゅーことは、や。
 それはつまり―――………
 この状況を………
 自分から受け入れて、進んでやってるっちゅーことやないか――――――――!!!」

「……………………」

「だーからああ!!俺がこの前言ったじゃねーかああああああああ!!!
 こいつの真名はクソビッチだって」



男があそこに指を挿れてきた。
乱暴に私の中を掻き回す。



「なんやこれ、えらいきったないなぁ……。
 なあ、これ、何発出されたん?」



最悪、だった。

こんな最悪な状況…そうそうない。
最悪を通り越してもう滑稽ですらあった。

父の為に甘んじて拘束されたのに、よりにもよって逃げ回ってきた相手の目の前に晒される。
私は僅かにも、何一つの抵抗もできないまま、彼らの手に捕らわれてしまった。



「クリちゃんビンビンやん(笑)
 なんや、自分こんな状況で感じてるん?」

「………………」


恥ずかしさの余りに死んでしまいたかった。



「しっかし……、なんやなぁ……。
久しぶりに嬢ちゃん戻ってきたから覗いてみたら、えらい状況ことになってもうたなぁ……。
ちょっと自分、展開についていかれへんわ―――…」

「いい展開じゃねええかあああ?とりあえず挿れさせろおおおお」

「あのなぁ、呂久斗。
 お前はほんと能無しのくそったれや」

「あ"あ"あ"ッ――――!!!???」

「この親父にこの嬢ちゃんの真名を聞き出そうと思ったんに、完全にのびしてしもうとるやないか!!」

「……………、クソビッチ」

「もうええわ……」





私の中に男が入ってきた。
父の精液で満たされていた私のあそこは、男のモノをすんなりと飲み込んだ。


でかい。
お腹に、もの凄い圧迫感。




「ふ――――――っ――――!!んんっ――――――――――!!!」




下から激しく突き上げられる。
私に為す術はない。

口に変な器具をつけられているため、相手を罵倒することも、噛み付くことさえも、なけなしの抵抗をすることさえ、できない。



父がこんな変態じみた玩具を使ったばっかりに――――――!!



一瞬浮かんだ父に対する怒りはすぐに消えた。


私を失って―――――、


父が一体、どんな気持ちでこんな機具を買い漁ったのかを思うと胸が苦しかった。





「呂久斗、イクならはよせぇや。
 この前はとんだ邪魔が入った所為で・・・・・・・・・・・・1ヶ月も待たされたからなぁ―――。
 今回はさっさと嬢ちゃん連れて帰るで」

「う”る”せ”ええええ。
 ははっ、ははっ、ははっ、このまま中にぶちまけてやるう”ううううぁぁぁぁ!!
 妊娠しろおつ、妊娠しろおッ、クソビッチイイイ!!!」




悪夢だった……。
結局これもまた、私が払うべきツケの一つなのかもしれなかった。


父を置いて逃げ出した私への――――――――――――……





腹の底に何度も迸った熱い粘液に、私は身体を仰け反らした。


















































ズゥゥン――――――!!!!!











「グエッッッ――――――――――――」





瞬間、私は<手>で男を押し潰した。
もう一方の<手>で目隠し、猿ぐつわを、拘束を一気に引き千切る。



開いた視界に、あの男二人がいた。
巨漢の所為で、うちのリビングがやたら狭く見えた。


関西弁の男は私の直撃を受けて既に床に伸びている。
横目で見ると、台所に父が倒れているのが見えた。



が、今は――――――、





「ぐううううううおおお―――――、なんで、結界があああ――――――」



座主坊と呼ばれた巨漢が、股間を丸出しにしたまま呻く。



私はすぐに動いた。





ガンッ―――――――――――――――――!!!!!





受け止められる。



くっ―――――――――……



(まじ!!
 こいつの肉体、どうなってんの―――!?)





「せつらさん!!」



リビングの扉が開き、入ってきたのはみことだった。



「みこと!助かった!」
「うん―――!」



封じられた鬼の力が再び解放されたのを感じた瞬間、私は攻勢に出た。
彼らもすぐに気付いたけれど、私の方が断然速かった。





だって信じていたから。
ずっとずっと信じて、待っていたから。





絶対にみことが来てくれるって――――――!!!










みことに飛びかかろうとした座主坊を私が抑え込む。
そのまま投げ飛ばし、リビングのガラスが何枚も派手な音を立てて割れた。
突進してきた巨漢を受け流し壁へとぶち当てる。
壁ががらがらと崩れ、鉄骨を露わにした。

しかし強い。
この<力>は人間の力では到底太刀打ちできないはずなのに。



「せつらさん、奴の<力>は封じたよ。
 もう普通の人間と変わらないよ」
「え?」



みことが笑った。

が、不意にその笑顔が滲んで―――――――――………



「せつらさん……?」


「ううっ……うううううっ…………ううううううああああっ―――……」





堪えきれなかった。



だって、



だって、



彼女の笑顔が、あまりにも頼もしくて―――――――――………










こんな変な力を手にして





私は何もかも失った





それからはずっと独りだった……





もう普通の人間でさえなくなって、





周りは敵ばかりで、





ずっとずっと、独りで、





なのに………




















私、せつらさんと生きるために、強くなったんだよ?




















私は――――――――――――――……


















































早朝5時―――――――――――――――――――…
私の家の前はパトカーと救急車と、それから沢山の野次馬でごった返していた。

奴らは人払いの結界も施けていたそうだけれど、みことがまとめて取っ払ってしまったために、乱闘を聞きつけて近所の人たちが集まってきてしまったのだ。



ことの顛末はこうだ。

『突然家に押し入ってきた二人組が、父親を殴って気絶させ、娘を拘束し、暴行。
 偶然、家を訪ねてきた友人と乱闘になった末、なんとか撃退――――――』

私としては、流石に殺すことはできないにしても、やつらのアレを引き千切る、くらいはしてやりたかったのだけれど、早朝とはいえガラスを派手に割った時点で近所の人たちが集まってきてしまい、一方的に酷いことはできなかったのだ。



幸い、父は軽傷で済んでいた。
しかし強く頭を打っていたため、大事をとって検査入院することになった。


私はといえば、全裸で体中から異臭を放ち、現場の様子が様子だっただけに、被害者を装うことは余裕だった。
ただ加害者の精液検査なんかをされると3人分でてきて困ったことになるので、「大丈夫です」「大丈夫です」と何度も繰り返し、早々に切り上げた。

できるかぎり重罪にしてあの二人を檻に閉じ込めて欲しいけれど……、
彼らは三麓高校に転校してきたばかりだと言っていたし、また、未成年、で……………。






























やっと落ち着くことができたのは、太陽も空高くあがった昼過ぎだった。



とても疲れた。
大変な事件だった………、に違いない。


でも大した苦労じゃなかった。


だって、私の傍にはずっと彼女が………










ずっとずっと、










みことがついていてくれたから――――――――――――――







































































第79話:襲撃
終わり

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  第80話:エンゲージリング
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