翌日もまた、私たちは遊んで――――――――、
そしてまた、次の日も――――――――





「なぁ、いいじゃん。
 暇なんだろ? お兄さん何でも奢っちゃうよー?
 な、ちょっとだけでいいからさ、
 一緒に美味しいものでも食べいこうよ」



ほんの少し私が離れた隙に、みことが3人組の男に囲まれていた。
みことはちゃんと断っているのに男共はしつこく誘い、なかなか離れようとしない。
私はその光景に本気に腹が立った。


軽薄に彼女の肩を抱いた男を<手>で押し潰そうとして―――――――




「だめっ、せつらさんっ――――――――!!」




みことに飛びかかられてハッと我に返ったのだけれど、
その時、みことが凄い恥ずかしそうに顔を赤くしていて、
私も剥き出しにしてしまった自分の感情に、急に恥ずかしくなって、



なんかもう、うー、うー、ああ、言葉にできない、



あーあーあーあーあああああああああアアアア@:〜%$’%)*+>L










カラオケで唇を重ね、愛撫し合い、絡み始め――――――、
どうにも収まりがつかなくなってしまった私たちはラブホテルへと入った。


私たちは互いを求めて止まなかった。
何度でもお互いを求め続け、快楽を貪った。


身体が喜びに震えていた。



相手は見知らぬ援交親父でもなく、父でもない。



本当に触れたい相手に触れて



本当に触れて欲しい相手に、触れて貰える喜びに、打ち震えていた。




「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」
「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」
「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」
「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」
「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」
「はぁっ――――…はぁっ――――…はぁっ――――…」




私たちはお互いの息さえも溶かし合うように、ただひたすらにお互いを求めあった。




















彼女の淡いベージュ色の髪を愛でながら梳かしていると、不意に私の携帯が鳴った。
それは病院から父の退院の知らせだった。





その知らせに、胸が締め付けられ、苦しみに支配されそうになった私は、その中に一つの光を見た。
私は自分の抱いた感情にびっくりした。





それは、微かで、でも確かに、私の心に芽生えた光。



それは今まで私の中に、決して存在しえなかったもの。



でも今は確かに感じる。





私の中にはっきりと芽生えた、勇気―――を。





それは間違いなく、目の前の少女が、与えてくれたもの――――――――――……






























そして私は決意した。































私はみことに全てを話した。

飛鳥を失い、萌と一緒に援交を始めたこと。
それから自分の父と、援交相手として出会ってしまったこと。
それからずるずると関係を持ち続け、父がおかしくなってしまったこと。
父が私を娘だと分からなくなってしまったこと。


そんな父に向き合えず、ずっと逃げ続けてきたこと…………。



でも今、どうしても父を救いたいということ………。





みことは静かに私の話を聞いてくれた。



ただずっと私に寄り添い、耳を傾けてくれた。






































































私は父の退院祝いをするため、改築されたばかりのリビングの飾り付けを始めた。

記憶を頼りに、あの時の光景を、できる限りそこに呼び起こす。
それは昔、父が私のために、私と飛鳥のために催してくれたクリスマスパーティー。
あの時の父の飾り付けに、できるだけ似せて。

父が私のために作ってくれた世界を、今度は私が作るのだ。父を取り戻すために。

料理は作る時間が殆ど無かったために買ってきたものばかりになってしまったけれど、それでも私は、私たちがずっと使ってきた食器に、綺麗に盛りつけて並べた。

とても二人で食べきれる量ではなくなってしまったけれど、ここで私たちは、日々、共に食卓を囲ったのだ。
家族として、父と娘として。

『お父さんおかえりなさい』とプレートに書かれたケーキは冷蔵庫に冷やしてある。
本当は店で、『お父さん退院おめでとう』と書いて貰ったものを、私が家に帰ってから自分で書き直したのだ。



私の想いを、願いを、込めて――――――……。




















そうして私は、玄関で父を迎えた。





「ひかる―――ひかるじゃないか!!
 もしかして、パパが今日退院だって知ってきてくれたのかい!?
 いや嬉しいよ」


私は抱擁もそこそこにすぐにリビングへと父を誘った。
私が作り上げた世界に、父が溜息を漏らした。


「まさか―――………、これ全部ひかるが?
 一人で……?
 私のために?」

「そうだよ。ねぇ、この光景、覚えて無い?」

「素晴らしい光景だよ。
 でもツリーまで出して、なんだかこれじゃあクリスマスパーティみたいだなぁ」

「そうだよ。クリスマスだよ。
 一昨年のクリスマスパーティ、よく思い出して。
 お父さんが、私と飛鳥のためにこれと同じように飾り付けてくれたでしょ?」

「一昨年―――?…………、…………、
 なぁ、そんな昔のことはもういいじゃないか……。
 それよりもひかる、折角作ってくれたんだ、早速食べようじゃないか」





「違うよ―――、お父さん――――――。」





「ひかる……?」





「違うんだよ、お父さん。





 私はひかるじゃないよ。





 私はせつら……、お父さんの娘の―――せつらだよ―――。」





「せつ―――……ら…?
 なにを言ってるんだ?
 あの子は――――――あの子は――――――………」



「退院おめでとう、そして、お帰りなさい――――――、お父さん。」



「ははは………、、、ひかる、何を言ってるんだ…?
 まさか、また他の男に躾けられたのか?
 パパだよ、ほら、パパって呼んでおくれ――――――」



「お父さんやめて」



「やめる?なにを?
 いつも美味しそうにしゃぶってたじゃないか。
 ほら、折角退院したんだ。
 また一緒に楽しもうじゃないか。
 ん?また何か欲しいものができたのか?
 なんだい?言ってごらん、欲しいものがあるならパパが何でも買ってあげるか――――――」


「お父さんやめて!!!
 私はせつらなの!!
 ひかるじゃない!!!
 あなたの娘なの――――――!!!」



「なにを、分けの分からないことを――――――、
 ほら、脱げっ、ひかる、脱ぐんだっ―――!!!」





私は父を突き飛ばし、用意しておいたハサミを手に取った。





「ひかる―――、何をっ―――――!?」





父はこの黒髪をお母さん譲りだと言っていた。

だから、本当は気付いて欲しかった。
私だって、せつらだって、気付いて欲しかった。

でも、分かってくれないなら、










私は父の目の前で、バッサリと髪を切り落とした。










「見て、お父さん―――!!
 私を見て―――!!!
 ちゃんとみてよ……、お願いだから……、ちゃんと私を………





 わたしを、見てよ………」





「ひか…………る………?」










「わたし、せつらだよ………、、、せつらだよ、、、」


















































「せつ………   ら…………――――――…  ……  …   ?」






































































私は泣き崩れ、父もまた泣いていた。





父は何度も私の名を呼んだ。



何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も―――――――――………



今までに呼んで欲しかった分を、全て埋めてくれるように―――、



何度も、何度も、



私はその度に頷いた。
嬉しくて涙が堪えきれなかった。





「うん、私せつらだよ、ここにいるよ――――――」





私たちはリビングで抱き合って泣き続けていた――――――……






























私は、父が母・光未みつみのことをひかると呼んでいたことを知った。

そして石場が、母が浮気し共に出て行った相手の男の名前だということも――――――……





父はずっと苦しんでいたのだ。





ずっとずっと苦しみ続けていたのだ。










父はずっと、自分を捨て、他の男と出て行った



母の幻を追って―――――……










最愛の女性に裏切られた心の傷を癒せないまま――――――………










たった一人で苦しみ続けて――――――..........








































「せつら―――――――――……、赦してくれ、、赦してくれ、、」





「謝らないでいいんだよ。
 私たちは家族だもの。
 私はお父さんが、元気で、そして私の名前を呼んでくれるだけで、
 それだけで、ほんとうにそれだけでいいんだよ――――――……」




















「ねぇ、お父さん―――
 お父さんはこれからきっと、またいい人に出逢えるよ。
 私はそう思う。
 だってお父さん格好いいし、優しいし、素敵だもん。
 だからもう、泣かないで


 ね――――――――――――――――」










私たちの顔は二人とも涙でぐちゃぐちゃだった。










「私お父さんが再婚するの、楽しみにしてるから、
 絶対に、絶対に祝福するから――――――」





「ありがとう、ありがとう、ありがとう、せつら………」






























ありがとう





みこと





この髪を切るのを許してくれて










お父さんが、










お父さんが、帰ってきたよ――――――




















みこと、本当にありがとう




















私に勇気をくれて







































































第81話:勇気
終わり

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  第82話:幸せの景色
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