「くっ―――――――――――!!!」


私は悔しさに歯ぎしりした。

みことがあまりに気持ち良さそうに寝ていたものだから、だから、用事を済ませたらすぐに戻るつもりで、ちょっと家に帰っただけなのに――――――…。



いやらしい笑みを浮かべた少年が私の前に立ちはだかっていた。



でも、だって、あれから・・・・まだ1週間くらいしか経っていないのに!!


そんな――――――!!!










「この前はえろう世話になったわ――――――、なぁ、嬢ちゃん。
 ちょっとまんこ借りただけやのに―――……
 いくらなんでも、ぼったくりなんちゃうんか!?」


「鬼喰らい……」


「へぇ―――……。
 あの子・・・に聞いたんか。
 なんや優秀な巫女さんらしいなぁ―――……。
 呂久斗が言っとったでぇ、ほんの一瞬で抑え込まれたってなぁ―――」



私は<力>を解放する。
が、やはり既に封じこめられている。

住宅街、平日の昼間にもかかわらず、一切の人影がない。

私は必死に周囲を見渡す。
こいつがここにいるということは、あの巨漢もどこかに潜んでいるはず――――――――



「呂久斗がどこにおるんかそんなに気になるん―――?」

「―――!?」

「なぁ、どこやと思う、せつらちゃん」



どこか間延びしたような、含みを持たせた言い方に危機感を煽られる。
いや、この男は最初からそうだった。
人をからかい、見下して楽しんでいるような、喋り口。


が、私は、自分が思い当たった可能性に驚愕した。


「って、まさか―――!!!」

「せや。
 俺は巫女で、嬢ちゃんの<鬼>を封じられる。
 そして男や。
 単純な腕力ではせつらちゃんより上や。
 そして――――」


彼の言おうとしていることは既に分かっていた。
こいつらは男二人組で、私たちは女二人組なのだ。


「呂久斗は優秀な依代やから<鬼>を降ろせるけど――――…
 あの子・・・なら呂久斗の<鬼>を封じてまえる。
 せやけど―――<鬼>を封じたところで、呂久斗の腕力には勝てへん・・・・・・・・・・・・



つまり私たちはそれぞれ一対一の体勢に持ち込まれたのだ。
それも単純な腕力勝負の。
それは女である私たちには明らかに分が悪い勝負――――――。



「まずはこの前のお礼参りや。
 なぁ、嬢ちゃんに殴られて何本骨折れたと思うてるん?
 鬼の力で人間殴ったらあかんなぁ―――」

「くっ―――――――!!」

「くっくっく、この短期間でどないすれば治るのか知りたいやろ?
 それにほんまは警察におるはずやのにどうしてここにおるんか――――――
 俺らにとって人間の目を誤魔化すのは結構簡単なんやで―――――?」

「ごちゃごちゃうっさい。
 さっさとかかってきなよ――――――!!」



こんなやつに構っている暇はない。
こんな無駄話をしている暇はない。

みことがあの巨漢に乱暴されることなど絶対にあってはならない。



早く助けにいかないと――――――――!!!!!










私は構えた。

勝算はない。
族に入っていたからといって強くなったわけでもない。
こんなことなら羽織にもっと喧嘩の仕方を教わっておくんだった、と心から後悔した。


目の前の男をぶちのめすのが一番早いけれど、そう簡単にいくはずもない。

なら戦うことなく、この場から離脱し、一刻も早くみことの元へ向かうのがベスト―――――!!




遠回りにになっても、こいつを撒くしかない。
私は一目散に、元来た道を駆け出した。




はぁっ―――――はぁっ―――――はぁっ―――――




でも駄目だった。
呼吸が、体力が、全然続かない。
持久力が全くない。

私はすぐに男に追いつかれてしまった。



「このっ―――――――――――」



思いきり爪を立てて振った腕は掴まれ、腹に膝の直撃を貰った。
私はがっくりと膝をつく。

男が尻を向けたかと思うと左から薙ぎ払われた。


後ろ回し蹴り――――――!


腹の激痛と視界の揺れに意識が遠のく。



顔面から地面への直撃は何とか逃れたが、アスファルトに擦れた手と腕に血が滲んだ。



「はぁっ―――はぁっ―――……」



寒い―――。
すでに11月に入り、気温は一気に下がり始めていた。

体中が酸欠で、肺が必死に酸素を求める。
目眩がした。
暗転したままの視界でそれでも何とか立ち上がる。


それにしても本当に容赦がない。
女の子にこんな暴力を振るうなんて、本当に酷い、最低な男だ。



「暴力はいつも呂久斗の役目やから、久しぶりやわ。
 ほんまは、女の子をいたぶるのは趣味じゃない―――――わけないやんか。
 ごっつ血が騒いどる!!
 ほら、はよ、立たんかい!!せつらちゃん!俺をもっと楽しませや―――!!」


足を払われ、体勢を崩した服を掴まれ乱暴に引き回された。
脱がそうとしてきた腕に爪を立てようとしたらすぐに突き飛ばされた。

完全に相手に読み切られている。
というより冷静に対応されている。

こっちは呼吸を整えるのに必死だというのに。


立ち上がろうとしたら裏手で思いきり頬をひっぱたかれ、倒れたところを上からのし掛かられた。


膝で何度も蹴り上げるが、びくともしない。
たちどころに上着を捲られ、ブラを引き千切られた。



「やめろっ、この――――――――――――!!!」



両手首を片手で締め付けられ、頭上で拘束された。
暴れたけれど、びくともしない。



はぁっ―――――はぁっ―――――はぁっ―――――



おかしい。
男と女。確かに筋肉量は違う。


筋肉量は違う、が――――――、そこまでの体重差は無いはずなのに――――!!



「嬢ちゃんが今考えてること、当てたろか?
 どうしてこんなひょろい男一人突き飛ばせないのか。ちゃうか?」

「……………」

「自分から股開いて、ちんぽはめてくださいって言えたら、教えてやってもええよ?」

「……………」


「……………」

「……………」


「俺は巫女や―――…、
 呂久斗ほどとはいかへんけど、俺も少し位なら<鬼>を降ろせるんよ――――――」





次の瞬間、思いきり服を引き裂かれた・・・・・・





最初から腕力勝負なんかじゃなかった。

こいつは今まで楽しんでいたのだ。

ただ嬲っていただけなのだ。

絶対的優位な立場からの狩りを。





男が嬉々とした表情で、ベルトを外す。
片手で私の両腕を拘束しているために、片手で外さなければいけないためにやけに手間取っている。

が、抵抗のできない私にとってそれは絶望の光景に他ならない。




路上で男に押し倒され、服を脱がされ、為す術も無い。
このまではまた、欲望の捌け口にされてしまう。




みこと――――――――!!!




「そんな嫌そうな顔されると、めっちゃそそるわー。
 ビンビンすぎてパンツに引っ掛かってしもうたやないか。
 すぐにぶち込んでやってもいいんやけど………、
 一つだけ素直に教えてくれたらとめられるかもせえへんよ?」

「…………?」

「嬢ちゃんの名前や。
 羅城せつらっちゅーんは、本当の名前やないんやろ?
 もう一つ、名前をもっているんやろ?」

「……………」




バチッン――――――――――――!!




黙っていたら思いきり殴られた、頬の内側が切れ、血の味が口に広がった。



「なあ、女は乳首って結構感じるンやろ?
 食いちぎったらイッてまうの?
 それとも痛いだけなん?
 あ、聞いても分かるわけあらへんな。
 嬢ちゃんの乳首はこうして2つとも綺麗に残ってるもんなぁ(笑)」



「はぁっ――――はぁっ――――はぁっ――――」



男が乳首に爪を立てる。
それから思いきり抓られた。

痛みと、恐怖に身体が震えた。
それと目の前の男が持つ狂気も、私の精神を存分に怯えさせていた。



「しゃべらへんならしゃべらんでもええわ。
 身体に訊くまでや。
 お嬢ちゃん犯してな、気ィ操って、喋らせるンや。
 ま、薬つこうのと似たようなもんや」


男が熱り立った男根を取り出す。

懸命に股を閉じようとしたけれど無理矢理こじ開けられた。
もの凄い力だった。


「あんま抵抗すると筋傷めてまうで。
 頑張って締めるのはマンコだけにしてや」


男が私の入り口にあてがうのが分かった。










みこと―――――………ごめん………










私は悔しさに涙が滲ん――――――――――――






























「なんや―――――――――――――――――!!!!」





私は容赦ない一撃を放つ。


男はとっさに両腕でカバーしたけれど、私の<拳>の直撃に何メートルも吹っ飛び、壁に激突して止まった。




<結界>が解かれたのと同時に私は思いきり力を解放したのだ。




私はゆっくりと立ち上がった。

体中に激痛が走った。
その痛みが、目の前の男への怒りを倍増させる。



「はぁっ―――――…はぁっ―――――…」



男が呻き、立ち上がる。
足元がふらついている。
依代といっても、あの巨漢と違い、こいつはほんの僅かな<力>しか降ろすことができないらしい。



「普通……、結界ちゅうんは、無理矢理解こう思たら、
 兆しとか、揺らぎを感じるもんやなんけどなぁ……。
 あの嬢ちゃんの力ごっつ半端ないわ……」

「それは残念。
 あのデブは、みことに勝てなかったみたいね」

「ほんま、役に立たんやっちゃでぇ……」

「もう二度と私たちに近づかないと誓って。
 そうすれば見逃してあげないこともない……。
 でも約束しないなら―――――」

「くっくっくっ―――――…………、
近づかないと誓え?見逃す―――?
あっははっははっははははは――――――――――――あっはっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははははっははは――――――あっははっはははは―――――――――!!!!」




私の言葉に、突然男が哄笑を始めた。
殺意を押し殺し、有り得ないくらい譲歩したはずの私の提案を笑い飛ばされ――――――、
でも私は怒りよりもその、あまりの気味悪さにたじろんだ。




「はっははっは―――――――――……そんな舐めたこと言わんといてや。
 反吐がでそうや!!

よう聞けや――――――!!!

 俺らは<鬼>を狩ることが全てなんや!!!
 <鬼>の力を手に入れること。それが俺たち一族の生き方、人生なんや!!!
 俺らの村では巫女を育てる。
 が、巫女は誰もがなれるもんやない。
 極限られた一握りのもんだけや。
 弱い奴は途中でばんばん切り捨てる。
 俺らの村では<巫女樽>ちゅー風習があってな。
 巫女になりこねた奴の四肢を斬り落として樽につめるんや・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 殺さんよううまくやってな。



 そうして俺ら選ばれた巫女が、そいつらの血の結晶を喰らうんや。



 俺らの怪我があっと言うのも仲間の魂を喰ろうてるからや。





 俺らはほんまに一族の<命>を背負ってるんや―――――――――!!!





鬼を狩ることにこの命を賭けとるんじゃボケェ―――!!!






舐めたこと抜かしてるとぶち殺すぞクソアマが―――――!!!!!」





















私は男の狂気と凄まじい怒気に怯み、思わず後ずさった。




「殺せや!殺す気でこいや――――――!!!
 食うか食われるか、それが俺らの戦いなんや―――――――――!!!」



男が叫び、無防備に私の前に両腕を広げた。

思いきりぶん殴ってやりたい衝動を感じるも、手が動かなかった。

先ほど殴りつけた時に分かってしまった。

この男はあの巨漢とは違う。

思いきり殴れば本当に壊れてしまう。


既に今、何本か骨が折れているはず――――――……
にもかかわらずこうして平然と立っているのは、その強靱の精神力ゆえなのか、あるいは狂気に支配されているからなのか―――……






今はもう私の方が圧倒的に有利――――――





しかし私は男の狂気の前に完全に怯んでしまっていた。





でもっ、





でもっ、





でも、私とみことの前に立ちはだかるのなら、





私は―――――――――――っ!!!










でも……、人を殺すなんて、そんなこと―――、





そんなこと―――………




















「殺す必要なんてない。
 私たちは貴方のもってる鬼を封印するだけ―――。
 それでも私たちに危害を加えるつもりなら、今度は霊門を閉じさせて貰う―――――――」





振り向くと、いつのまにかみことが立っていた。





「みこと―――――――――!!!」

「せつらさん!
 大丈夫!? なんて酷い怪我っ―――!!
 あいつにやられたの!?」

「私は、なんとか……。
 みことこそ、大丈夫だった!?なんともない!?
 あのデブに襲われたんでしょ―――!?」

「え?襲われてないけど?」

「え…?」

「あー、表が騒がしかったの、それかな?
なんか無理矢理エントランス通ろうとした人がいたらしくて、パトカーとか警備会社の車が何台もきてたよ。結構暴れたみたいで……」
 
「なんやと!?
 あの馬鹿ッ―――――……」





「じゃあ、早速だけどあなたの持っている<鬼>を今ここで封印させて貰うよ。
 二度とこんなことができないようにね、鬼喰らい」


「鬼喰らい鬼喰らいって、傷つくやん―――――――……
 俺らは悪い鬼を退治してんねんで?
 はっきり言うて正義の味方の方や」


「人間のくせに<鬼>の魂を喰ったんでしょ―――?
 気持ち悪い」


「気持ち悪いって、そんなん言うてしまってええんか?
 そんなん言うたらその嬢ちゃんめっちゃ傷つくんやないの?
 だってまるっきり鬼やん」


「いいの!!
 せつらさんは可愛い鬼なんだから―――!!」



「―――――………」





男が動いた。
いつの間にかその手に紙を持っていて、それを宙へ投げる。




すると音もなくそこに―――――――――――――――――――――


一匹の虎、のような・・・・生き物が――――――!!!




と思ったら、次の瞬間、それは再び煙のように消えた。





「なっ―――――――!?」


何が起きているのか分からず、私は驚いたけど、目の前の男はもっと驚いていた。


「識神を使役できるのは凄いけど、私の前じゃなんの役にも立たないよ?
 それにこの程度じゃ、せつらさんの鬼にも敵わない」

「なんなんや、この嬢ちゃんは………」

「襲う相手のことくらい、少しは調べようよ……。
 私は名前は御巫みこと―――
 一応これでも、次期当主に一番近い身――――――だから。」



私は何が起きたのか分からない。
が、どうやら私たちが圧倒的優勢にいるらしい。

関西弁が手下の妖怪っぽいのを喚んだけど、すぐにみことに消された、って感じなのかな。










「きゃああああっっ―――――――!!!!」





突然、遠くから悲鳴が聞こえた。

振り向くと、巨漢がこちらに向かって走ってくるところだった。
体格の割にその重さを感じさせない、軽快な走りで、それが逆に見ている側の恐怖心を増す。


呂久斗という巨漢が、少年の傍へと駆け寄る。


「恭兵いいいいいいい、お前の術効いてなかったぞおおお――――――!!!」

「あ?そうやったか?
 それはすまんかった、お陰でこっちもぼろぼろや」

「丁度よかった。
 そいつの鬼も、この場で封印させて貰うから―――――――!!
 もう二度と私たちの前に現れないで!!」

「なあ嬢ちゃん。
 結界破るのはいいんやけど、人払い・・・はそのまんまにしておいてや。
 お互い他の人には見られたくないやろ?」

「私たちは別にやましいことなんて何一つして無いから」

「でもそっちの嬢ちゃん凄い格好やで?」



指さされ、皆の視線が私に集まる。

引き裂かれた服はぼろぼろで、下着は無理矢理引きちぎられた為に、着直すこともできず―――――……、私はほとんど半裸も同然だった。

どおりで寒いと思った。



「あああっ、せつらさんっ――――――
 ごめん……!!!」


みことが上着を脱いで私に貸してくれた。
けど丈が足りなくて、下が……。


「ありがと、みこと。
 じゃあ早く封印とやらしちゃって。
 こいつらとはもう二度と関わりたくないよ」

「う、うん―――……」



「なにやってるの?あなたたち!?」
「おいっ、君っ、大丈夫か……?
 おい警察を―――――」
「警察だっ、警察を呼べっ―――」


いつの間にか周囲には人が集まってきていて―――――
口から血を流し、服を破かれ、明らかに暴行を受けた跡が見て取れる私の姿に、通りすがりの人々が騒ぎ始める。





「どうや、こんだけぎょーさん人がおる前じゃ、もう何もできへんなぁ?」

「関係無いって、言ったでしょ。
 そっちこそ、その学生服、三麓高校のだよね!?」

「ああ、転校してきたばっかりやってのに、
 先日捕まってしもて、退学にされてしもたわ。
 まだこれを着てるのは、単なるあてつけ・・・・や」

「じゃあまた大人しく捕まって。
 せつらさんに非道いことしたんだから」

「いや、今日のところはこれで引き下がるさかい、遠慮させてもらうわ。
 でもその前にもう一度自己紹介させてもらうわ。
 嬢ちゃんとは顔合わせ初めてやからなぁ。
 俺は小童谷恭兵。
 んで、こっちのでかぶつが座主坊呂久斗。
 そしてうちらは鬼を狩る正義の使者、エンジェルヘイロウや―――――!!!
 今度からは鬼喰らいやのうて、エンジェルヘイロウって呼んでや!!

 お集まりの皆さ〜〜〜ん!! 見た目に騙されたらアカンで!
 ほんまはこいつらが悪い鬼ちゅーやつで、俺らは正義の味方なんやで――――――!!」


「なっ―――――…………!?」


「にしても、なぁ、呂久斗、なんでエンジェルヘイロウなん?
 どっちかっていうと、オーガスレイヤーとかのほうがかっこいいんとちゃうの?」

「ここ、輪光、光の輪、エンジェルヘイロウ………」

「ま、なんでもええわ………」





私たちは小童谷という、変な大阪弁を喋る少年のペースに完全に乗せられていた。

どんどんと集まってくる野次馬の中には、携帯カメラで私の姿を撮る人まで現れて………。
こっそり<腕>を伸ばし、その携帯を思いきり握りつぶしてやったけど。





「じゃ、決着はまた後日ってことで――――、ほなさいなら――――――!!!」
「次はまじぶち込むぅううううッッッス――――――――――!!」


「あっ、待ちなさい――――――!!!」





みことの制止虚しく、その二人組は瞬く間に私たちの目の前から姿を消した。



















































第83話:鬼喰らい
終わり

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  第84話:房中術
― ―― ―――――――――――――◇――――――――――――― ―― ―
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