繁華街でショッピングを楽しんでいた時だった。
みことは輪光に引っ越してきたばかりだから、これからの冬に備え、暖かい衣服を買い揃えなくてはならなかった。
私は彼女に、次から次へと服を着せ、彼女が可愛らしい姿になるたびに心もだえた。


私が男だったらこんな可愛い子、絶対に放っておかないだろう―――。


でも実は………、、、

そう、何を隠そう、みことは私の彼女なのだ――――――!!! じゃじゃーん!!



うふふふふ――――――♪♪♪










突然みことの顔から笑顔が消えて―――――――……
それから周りから人の気配が消えていく。

私たちは無言で頷き合う。
今回はこの人払い・・・を解かない。
このままあいつらと決着をつける。




程なくして私たちの目の前にやつらが現れた。




「今は文明の利器ゆうて、そこら中に監視カメラがついて大変なんや。
 特にこの街は新しい所為か、建物だけじゃのうて、街中にもぎょーさんついてる。
 でも建物の中よりは大分マシちゅうもんや。
 どや、ちょっと移動せえへんか――――――?」



私たちは彼らの提案に乗って、店を出ることにした。
人払いの結界といっても単にその場に人を寄せ付けなくする効果があるだけで、外界から切り離されるわけでも時を止めるわけでもない。
監視カメラには記録が残るし、商品を壊せば当然、損害賠償なんかを求められるだろう。


私たちは彼らの背を追い、近くの公園へと移動した。
繁華街の中にある公園だというのに、人っ子一人いない。



「今回は私の鬼は封じないの?」
「封じたいのはやまやまやけど―――、
 封じたところですぐその嬢ちゃんに解かれてしまうやん―――」



彼らの意図が読めなかった。

私の鬼の方が圧倒的に強い。
巫女としても小童谷よりもみことのほうが優秀だ。

にも関わらずこうしてまた挑んでくるからにはなにか策があるに違いなかった。




その策はすぐに分かった。


人気の無い公園で彼らと対峙した私たちの後ろから、二人の女が現れたのだ。





つまり4人がかり。





みことが私の手を強く握りしめた。





「まずは紹介させてもらうわ。
 比良垣ひらがきかなみちゃんに、さがん立夏りっかちゃんや。
 俺らと同郷で、勿論二人とも優秀な巫女さんなんやで――――――」




ぐぐぐ――――――――――…




私は<鬼>の力を解放する。

2対4――――――、状況は不利。

<手>、<足>、<胴>、最初からフルパワーで行く。





小童谷が印を結び、座主坊の体に<鬼>の力が宿るのが分かった。

さっさと潰してやりたい衝動に駆られたが、私が前に出ると、みことが独りになってしまう。
後ろには女の巫女が二人構えている。




どうすれば――――――




巨漢が殴りかかってきた。



私は<腕>でみことを抱え上げ、飛んだ。

そのまま空中から巨漢の体に蹴りを放つ。





ズゥゥン――――――――!!!!!





巨漢がベンチを吹き飛ばし、茂みの中へと沈む。





次の瞬間、私の腕からみことがすり墜ちた。

いや、奪われた・・・・





「鷲―――!?」





突然の上空からの攻撃に反応できなかった。



「識神――――――――!?」



体長数メートルはあろうかという大鷲がみことを攫っていた。
が、みことが印を結ぶとそれはただの紙切れへと戻る。

中空に投げ出されたみことを受け止めようと走り出したら、いつのまにか私の足元に大きな白虎が現れていた。
どこかその存在の境界を虚ろにした、虎。

これも間違いなく識神だろう。


が、そんなものに構っている暇などない。
私は力の限りに跳躍し、落下するみことを受け止める。


背後から襲い来る虎に私は力任せに蹴りを放つ―――が、躱された。



茂みから抜け出した座主坊が再び突進してくる。





「股ァ開けやぁああああああックソビッチいい”い”い”ぃぃ―――――!!!!」





その体当たりを正面から受けようとした瞬間―――、不意に力の消失を感じた。



私は慌ててみことを突き飛ばし、身を捻って巨漢のタックルを躱す―――が、巨漢の手が倒れざま私の服を掴み、私も引き摺られて倒れ込んだ。


コートを脱ぎ捨て、巨漢の腕から離脱する。
しかし後ろから白虎に飛びかかられ、再び私は地面を転がった。



巨漢が私にマウントしようとして―――――――――





<力>が戻るのを感じ、巨漢を殴り飛ばす。





はぁっ――――はぁっ――――はぁっ――――はぁっ――――





途端感じる、<力>の消失。



みことを見遣ると一匹の識神を紙へと還しながら、私にかけられる封印に対応しているようだった。


2対4ではなく、2体の識神をいれれば、2対6。
状況はあまりに不利。

しかもこの識神というやつ、倒しても何体でも出せるらしい。



今のところ辛うじて直撃は免れているが、もし<力>の消えた瞬間、座主坊の一撃を貰えばそれだけで詰み・・だ。



その最悪な事態を避けるには、できる限り早く、敵の頭数を減らすしかない。
<力>が戻るまで逃げようと走るが、私の行く手に虎が回り込む。


<力>の回復を感じ、虎へ突きを放つ―――が、躱された。


背後から巨漢のタックルを喰らい、私は地面を転がった。

そのままの勢いに巨漢を投げ飛ばし、頭上に掌底を振り下ろ――――――――――



<力>が消え、男のごつい手が私の腕を掴んだ。



「放っ――――――――」



すぐに踏みつけようとしたけれど、腕をねじ上げられ、私は激痛に顔を歪めた。



「痛―――――――――!!!」



そのまま後ろから羽交い締めにされた。





「せつらさんっ!!」





<力>が戻るのを感じたが、発現と同時にまた消失する。




私の視界でみことが倒れた。

識神に抑え込まれたのだ。
みことはすぐに識神を消し去ったが、立ち上がるよりも早く、小童谷と女3人がかりで抑え付けられた。



「いやっ――――――いやっ――――――!!」



みことの悲鳴を耳にしながら、私は必死に身を捩り、背後の巨漢に何度も肘鉄を打ち込むがびくともしない。
巨漢がいやらしい動きで股間を私の体に擦り付けてくる。

私は思いきり足を前へ振り上げ、そのまま巨漢の股間へと打ち込んだ。

が、当たったふくらはぎに激痛が走った。

なにか鉄のような物をいれてガードしているらしい。



激痛に涙が滲んだ視界の端に、みことが抑え付けられているのが見えた。
あっという間に猿ぐつわをされ、両腕を後ろでに縛られていく。




「みことを、放せっ――――――!!!」




くそっ―――――――――――――!!!
くそっ―――――――――――――!!!
くそっ―――――――――――――!!!





そして私たちは二人とも、身動きがとれなくなってしまった――――――………。










「ま、こんなもんかいな。
 あー、でも一つ言うだけ言わせてもらいたいんやけど――――――、
 別に俺ら二人で嬢ちゃんたちに勝てない思てこの娘ら呼んだとちゃうねんで?」

「なによ、負け惜しみ!?」

「嬢ちゃんの中に眠る鬼の力を、少しでも逃さない為や。
 前回は折角夜叉っていう大物を捕らえたんに、殆ど浄化しもうたからなぁ。
 せやから今度は4人がかりで、俺たち4人に出来る限りその鬼の力を分配するんや!!」

「どうする気なの、私の真名が分からないと駄目なんでしょ―――!?」

「―――……、せやな。
 でも前回も言うたように嬢ちゃんの体に訊けば分かるかもやし―――――……」

「くっ―――――――――……」

「ま、でも分からんでも構わへん。
 もしかすれば真名は要らんかもしらんのや」

「――――――??」

「かなみ、立夏、どないなってるか分かるか?」



二人の女が私に近づいてくる。
触れられた。
一人は額。もう一人は喉。

私は身を捩ろうにも巨漢に抑え付けられていて身動きがとれない。



「恭兵様、恐らく大丈夫でしょう。
 この子の魂と鬼の魂は殆ど同質のようですし―――……」

「くっくっく――――――やはり思った通りや。
むしろ完璧に鬼を使役できている分・・・・・・・・・・・・・・・・好都合や・・・・



「…………?」



「じゃあ嬢ちゃんの魂ごと喰らってしまおう・・・・・・・・・・・・・・・・





「――――――――――――――!?」





「安心せや。別に嬢ちゃんは死ぬ分けやない。
 ずっと生き続けるんや。
 俺らが鬼を使役する為の媒体として・・・・・・・・・・・・・、俺たちの中で、永遠に―――――――――」


「何を言って――――――……」


「恭兵様、こっちの女はどうします?」

「そっちの嬢ちゃんもまた大切な宝物や。
 連れ帰って<巫女樽>にするんや。
 御巫の巫女さんみたいやから最高の樽になってくれるはずやで」

「分かりました」

「でもそっちは後回しや。
 さきにこっちの<鬼>を回収せな――――――!!」










みことを<巫女樽>にするだって!?
手足を切り落として、霊力だけを供給し続ける生け贄に――――――!?










ふざけるな――――――!!!



そんなことっ、絶対にさせるものかっっ―――――――――!!!!!!










が、私の必死の抵抗虚しく、猿ぐつわを嵌められ、手と足を縛られて地面に転がされた。
必死に<力>を出そうとするがまったく発現しない。










周囲を4人に囲まれた。










「こいつは一筋縄ではいかへんで―――――――――!!
 呂久斗!おまえは無我の境地や!
 受け入れ準備しときぃ!!」

「さ、先にこのビッチで一発犯らせろよお”お”お”。
 でないと煩悩払えねぇええぇぇぇええ!!!」

「何言うてん、お前も一応巫女やろが――――――!!
 気合い入れろや――――――!!!
 この鬼さえ喰ろうてしまえば、この先、女なんかいくらでも犯りたい放題やねんで―――!!!」

「おお”おぉぉおおお”おおおおおぅ――――――」




















ドクン―――――――――――!!!










私の中に何かが入ってきた。

そして私の中から、何かが無理矢理に引き摺り出される。



が、動けない。





「んんんっ―――――――――――!!!」










(あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ―――――――――――!!!)










それは初めて感じる恐怖だった。

絶望――――――というより、死んでも死にきれない、恐怖。

もうこの際、私は殴られても、犯されても、構わない。





でもみことを護れずに死ぬことだけは――――――――――!!!!!





神羅雪の時は、あまりの怒りに鬼の力が目覚めた。
でも今は。
何もできない。
本当に何もできない。





本当に?



本当にこのまま―――――――――何も抵抗できないまま、終わってしまうの?

みことを救えないまま――――――………





彼女を護ることもできずに、、、





ここで、、、




















「どないや―――!?
 ちゃんと嬢ちゃんの魂ごと引き抜くンやで――――――!!!
 間違っても鬼には触れたらあかんで――――――――!!!!」





「美しい――――――――………」





「クソビッチィィィ―――……なんて魂の形してやがああああ―――……」










(あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ――――――――――!!!)










私の中から<  >が、何かが、強制的に引き摺り出される。





無理矢理、体を切り拓かれ、





中の物を抜きとられるような――――――――――――





痛覚的な痛みではない。





存在を引き裂かれる、激痛。





強制的な肉体との乖離。




















私の<存在>が――――――――――――――――――――――――


















































「そこまでだよ――――――――――――――――――」





その時、公園に凛とした声が響いた。





ドサッ―――――――――――

突然、鬼喰らいの女の独りが倒れた。

3人がすぐに私から飛び退き、距離を取る。


途端、自分の体に意識が戻るのが分かった。


不思議な、初めて味わう感覚だった。
ありきたりな表現かも知れないが、それはまるで幽体離脱もしくは臨死体験とでも言いたくなるような―――――――――……



猿ぐつわをされている所為で鼻で必死に酸素を求めながら振り向くと、そこに綺麗な黒髪の女性が、木刀を構えて立っていた。





(いつきさん―――――――――――――!!!!)





「なんやお前――――――――!?」


「あんたらこそなんだよ?
 輪光ここが、神羅雪の縄張りシマだって理解ってやってるのか?
 もう一つ言わせて貰うと、その子はあたしの大切な友人なんだけどね?」


「なっ………、だからなんなんや―――!!
 誰なんやおまえ!!
 こいつ、結界を越えてきたんか――――――――――!?」


「結界?
 ああ、さっきから感じてる違和感のことか……、
 一体あんたら何をやってるんだよ?」


「――――――……、、ええわ、構わへんっ、
 呂久斗―――、やったれやあああっっ――――――――――――!!!」





「ウス――――――!!!」










ズゥゥン―――――――――――!!!










「く”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っあ”あ”あ”あ”あ”っ―――!!!」





意気揚々と前に出た巨漢が、次の瞬間には地面にはどんもり返り、悶絶していた。


どうやったのか―――、それがなんていう技のかは分からない。
が、確かに私は見た。

いつきさんの木刀が――――――、
それは信じられない速さで正面から巨漢の後頭部を殴打したのだ・・・・・・・・・・・・・・・・・





「なんや――――――――――!!?
 呂久斗!?」










「いつきさんっ―――!!」
「ほんと、あんたには驚かされてばかりだよ、せつら」


いつきさんがすぐに私の拘束を解いてくれた。
嬉しさのあまり思わず抱きつきそうになった私を、2体の識神が囲った。


「話はあとだ。
 こいつらは私が相手をする。あんたはあの子を助けてやりな」

「はい―――!!!」


とは言ったものの、<力>は発動せず、行く手を識神に塞がれ、みことの傍へ近寄ることができない。

いつきさんが白虎に神速の突きを放った――――――が、当たらない!!

躱されたのではない。
それは明らかに白虎の体をすり抜けた・・・・・



「なんだいこれは――――――?」
「なんか識神っていう、精霊の一種らしいです……」

「精霊?」
「はい」

「まさか、こっちの攻撃はあたらないけど、
 あっちの攻撃はあたる、とか詐欺みたいなこと言うんじゃないだろうね?」
「多分、、そんな感じ、かも―――……」



「ふん―――………」



いつきさんが面白くなさそうに呟いた。










ツゥ――――――――――――――――――――…










「え………?」



それ・・は私のすぐ目の前で神秘的な輝きを放っていた。





まるで目の前で突然フラッシュを焚かれたような、





それはいつきさんの手の中で輝く――――――――――………





って、木刀の中に真剣・・を仕込んでいたのかこの人は――――――――――――!!!





「一応、これでも神楽の奥義を受け継いだ身なんでね。
 羽織から訊かなかったかい?
 神楽は神を護るためにうまれた剣・・・・・・・・・・・・・・・

 識神程度、斬れなくてどうする――――――――――」





私は何も言えず、ただ見惚れていた。
そのあまりの美しさに。





彼女の剣が易々と識神を切り裂く様を―――――――――――――――――――










気付いた時には2体の識神は跡形も無く消え失せていた。
いや、紙だけは残っていたけれど。





私は急いでみことの傍へ駆け寄った。
猿ぐつわをはずし、拘束を解く。


「みこと―――!!」
「せつらさん――――――!!」


みことの声と共に<力>の存在を感じた。





その時、私は気付いた。

何度も抑え込まれたり、顕現させているうちにその感覚に慣れてきた―――と言うべきか。

確かにこの力は私の中にはない。
どこかから喚び寄せている、ということに。










「はは、なんや今回もまた失敗のようやなぁ――――――……」


小童谷が特に残念そうでもない様子で呟く。


「みこと、今度こそ、封印できる!?」
「うん―――」



なんとかしてこの場で終わりにして欲しかった。

今回はたまたまいつきさんが助けてくれたからいいようなものの、こう何度も狙われてはたまったものではない。
下手をすると今度は鬼喰らい一族総出でやってくる、なんてこともあり得る話だ。



みことは同じ巫女として、あいつらの霊門封じに躊躇いを感じてるようだけど、なんといってもあいつらは、私の魂を喰らおうとした・・・・・・・・・・・のだ、みことには悪いけどちょっと頑張ってほしい……。





「じゃあまた今度なー、せつらちゃん、みことちゃん」



小童谷のなれなれしい呼びかけとウインクに、正直ブチ切れそうになった。





「きゃあああ―――!?
 なに―――――――――!?」


突然悲鳴があがった。
いつの間にか公園に人が入ってきていたのだ。


倒れているのは比良垣かなみと呼ばれた女と、座主坊。

間の悪いことにいつきさんは神羅雪の特攻服で、真剣を手にしている。

銃刀法違反――――――……というよりもうこの場を一見した限り、いつきさんが二人を斬り捨てたと思われてもおかしくない光景だった……。


「け、警察!!!」
「チッ――――――――――」

「みこと、人払いの術はできないの?」
「あ、うん、でもすぐに効果はでな―――――――」

「無駄やで、今、人寄せ・・・の術かけてもうたからな――――――あ、解かれた・・・・
 ほんまみことちゃんには敵わへんなぁ―――、
 あかん、完全に惚れてしもたわ。
 必ず巫女樽にしてやるから・・・・・・・・・・・・楽しみにしとき。
 そうしたらずっと俺らと一緒やで。
 ま、また近いうちに逢おうや――――――」


そのおぞましい呪詛に、私は殺意に突き動かされるまま<鬼>の力を解放し――――――、が、みことに腕を掴まれた。

小童谷が倒れている巨漢の頭を蹴ると、巨漢はむっくりと起き上がった。



「呂久斗、かなみ担ぎや。いくで、立夏」

「はい、恭兵様」

「く”っっそ”おおお”おおお。。。。。
 おい、クソビッチ。
 帰ったら一発犯らせろ”お”――――――……」

「はい、呂久斗様……」





悲鳴を聞きつけ、次々と増えていく人集りの所為で、

結局私たちはそれ以上の手出しできぬまま、彼らは悠々とその場を後にした。




















気がついたときにはもう、いつきさんは姿を消していた。



















































 

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