私たちはみことのマンションへと戻り、シャワーを浴び、出前のお寿司を平らげて、ようやく一息つくことができた。
秋の涼しいそよ風が、部屋の中へ入り込んで私たちの肌を撫でていた。
「あの人が、せつらさんが入ってた族の―――……」
「うん。七種いつきさん。
神楽はほんとは羽織の家の剣術なんだけど、今はあの人が正統後継者なんだって。
すっごい強いよ、あの人は――――」
「羽織って、神楽の末裔だったんだね……」
「知ってるの?」
「うん。今は神楽って苗字の人も結構いるし、神楽って人がまんまその家系ってわけでもないから、一概に言える分けじゃないんだけど。あ、巫女の勉強するまではそういうの全然知らなかったけどね、私―――(笑)」
「そういえばみことの苗字の御巫って思いきり巫女っぽいよね」
「羅城はお城の外郭のことだね。
羅城門ていったら平安京の正門だよ。朱雀門と対をなしてる有名な―――――、こう言ったらあれだけど当時も、結構頽廃しててそこに鬼が住み着いてたって伝承があるね。
あとどっかの有名な文学作品にも出てきた気がするんだけど―――芥川龍之介だっけ?」
「へー、みこと、物知りになっちゃって」
「えへ」
私たちは下着だけでソファーのうえで寄り添い、互いの呼吸が感じられる距離で話を続けていた。
会話が途切れ、静寂が舞い降りる。
ここ最上階で、とても静かだったけれど、微かに鈴虫の鳴き声が届いていた。
また、襲われた。
死にかけた。
ううん、死にかけただけならまだいい。
でも私は死よりも恐ろしい恐怖を味わってしまった。
知ってしまった。
みことを護れず失うという、絶望の闇に蔽われる恐怖を――――――……
でも今、
私はこうして、
確かな鼓動を、確かな温もりを、確かな愛を、この身に感じていてる―――――…
感じることが―――――――――
「ね、これからどうしよっか……」
次に出会った時に全て終わらせるはずだった。
でも小童谷はさらに二人の巫女を呼んでいて……、しかもそれもかなりの使い手で、更には識神も召喚されて、私たちは負けてしまった……。
「無理、3人も巫女がいるんじゃ勝てないよ……。
識神もいるし…、方術の発動は基本的に一回一回印を踏まないといけないし―――……」
「うーん………、、」
今回はたまたまいつきさんが居合わたからいいようなものの、もしあのままだったら今頃どうなっていたか、それを考えるとゾッとする。
それは妄想―――、では済まされない。
もし助からなかったらどうなっていたかははっきりと、明確に分かっていた。
私は魂を食われ、あいつらの中で死ぬまでこき使われ、みことは四肢を斬られて樽漬けにされる。
そんなおぞましい未来、想像も、言葉にもしたくないけれど、私は今、しっかりと考え、受け止めなければならなかった。
決して揺るがぬ覚悟を決めるために。
勝てそう、きっと勝ってる、じゃ駄目なのだ。
確実に勝たなければ。
確実に潰さなければ。
私が手にするのは、最悪の未来の回避――――――ではなく、最高の未来そのものでなくてはならないのだ。
それこそが、私がみことを護る、ということなのだから――――――。
「せつらさん。私の家にいこう――――――」
「え……? みことの、家―――?」
「お祖父ちゃんのとこ。
御巫の―――――――、総本山」
第87話:増援
終わり