「ごっめ―――――――――――――――んっっっ!!!」





翌日、私はみことに手をあわせて謝った。
結局、昨日は一日中眠って終わってしまったのだ。

旅の疲れと、生理と、御巫の家へ来たことへの緊張と―――――――――、、、

いろいろな要素が重なって、とにかく、昨日はほんとに眠たくて、
ホントにホントに信じられないほど眠たくて、
冗談じゃなく、もう自分じゃ、どうしようもなくって………、、、




「やっと起きたみたい、せつらさん…」
「うん…」




みことが呆れたように笑い、私は恥ずかしさを隠すように頬を掻いた。




「でももう起きたからー! 生理痛も治ったしー!治ったしー! 体調いいしー!」
「そうみたいだね(笑)」

「よーし、今日から修行するぞぉぉ―――!
 どんな修行でもどーんとこいだよ!
 素振りなら任せて!」

「素振りなんてないよ……?(笑)
 あれ、まだ寝ぼけてるせつらさん?w」

「あ、そっか―――w
 羽織の修行と勘違いした〜〜〜w」




とてもすっきりとした気分だった。
すこぶる体調がいい。

頭の方もすっきりとしているはず―――なのに、どうにも記憶が混乱する。




「ね、みこと、変なこと訊くけどさ……」
「うん?」

「昨日私が寝てる時に、何か、した?」
「え?何かって―――?」

「うんと、その、、、、えっちなこと………」
「うん、全然起きないから、房中術で少し氣の調節してあげよかなって思ったんだけど―――」

「みことだけだよね?」
「え?」

「みこと以外には変なことされてないよね?」
「うん、大丈夫だよ」

「ごめんね、変なこと訊いて……」




本当は恥ずかしくてこんなこと訊きたくなかったけれど、飛鳥に挿れられた時の感覚がやけに生々しく記憶に残っていた。
だから、誰かに挿れられてしまったかと思ったのだ。




「飛鳥さんの夢、見たんだね」
「あ………」

「何度も、名前呼んでたからね、飛鳥、飛鳥って」
「ごめんなさい………」

「夢の中で、飛鳥さんとえっちしたの?」
「あっ…でもでも――――――!!!」

「?」

「こんなこと言ったら、変態って思われるかも知れないけど……」
「今更そんなこと思わないよ?」

「みことも、出てきてね……、
 それで、みことが飛鳥の………を口で咥えてて、
 それでいつのまにか私が男になってて、それでみことに挿れてて…、
 そういう、夢だったの……」

「変態………」

「ああああああああ――――――っっっっっ!!!!!
 変態って言った!変態って言った!」

「もおおおお!!
 せつらさん、変態だよおおおおお――――――!」

「違うもん!!
 みことが飛鳥の指輪飲んだからいけないんだもん!
 きっとその所為だもん!!」










「くらああああああああッ―――――――!!!!!
 何をしておる!!
 さっさと修行にこんかいっ!!!!!」






突然部屋の扉が大きく開かれ、大声で怒鳴られた。



「あああっ、行く、今行くから!!
 ちょっと、出てって―――!!!」



みことが慌ててお祖父さんを部屋から追い出す。





私たちは急いで服を着替えて、新しい一日を始めた。






























「お風呂ー!お風呂はいりたーい!」

「せつらさん、今勉強中。
 今日中に礼式全部マスターしてね」

「うー。お腹空いたー、ぺこぺこー、、、」


起きるのが遅かった上に、話し込んでいた所為で朝食まで食べ損ねてしまったのだ。
昨日は一日中寝ていたし、流石にお腹と背中がくっつきそう。


「せつらさん………。
 禊ぎってことにすればできるけど……、でも昨日せつらさん一日中寝ちゃったから、
 私も怒られて、今日もさぼったら多分、こうやって私が教えるのは無理になっちゃうよ?」

「うー、分かったよー、頑張るよー」



みことと一緒にいたいから修行をしているのに、別の人に教わって彼女と離ればなれになっては意味がない。


私はみことの見様見真似で、懸命に礼に関する立ち振るまいを覚える。
足の運びから、立ち位置による手の動きまでいろいろと細かい。


メンドイ。

けいけん?きんしん?はにゃあ―――?




「無理に頭で覚えようとしないでいいからね。
 何度もやってれば、そのうち自然と動くようになるから」

「はい」




いっそ舞とかを教えてくれたほうが私は嬉しいんだけど、とは言わない。
みことの動きは確かに巫女のそれで、凛として美しく、できるなら私もそんな雰囲気をまとえるようになりたい。





「ね、みこと、神様っているの?」

「んー、人間が存在する限りいると思うよ」

「う―――………?」

「どういう意味での神か分からないけど、
 ただ神格的存在なら、普通にいると思う」

「んとー、霊感とかで、感じられたりするものなの?」

「うーん……、それは無いかなぁ……。
それに霊感も、多分せつらさんが思ってるような、一般的に言われるような霊感・・とは違くて、
霊覚・・とでも言えばいいのかなぁ―――
普通の人には見えてないことはりを動かす力、みたいな感じ――――――」

「全然分かんない」

「せつらさん、鬼の手とか見えてないのに感覚だけで操ってるんでしょ?」

「うん」

「そんな感じだよ。
 普通の人にはない、もう一つ別の感覚の延長」

「へぇ……なるほどね。」










そしてやっとお昼ご飯。

もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
もぐもぐ。


がつがつがつ
がつがつがつ
がつがつがつ。


シーン。










「食べる時いっつも無言なの…?」

「うん、修行の時は、ね。
 せつらさんがお客さん扱いだったらまた変わってたんだけど」

「わたし、お客さんがいい」

「こらこらw
 でもたまにはお肉が出る時もあるよ。
 猪肉とかねw
 あ、お酒もでるかもw」

「そういえば神職ってお肉食べちゃいけないんじゃないっけ?」

「ま、一般的にはそうだけどね」



みことがちろりと舌を出した。



「あ!そういえば、みこと、私が穢れの月だからとか言ってなかった?」

「うん、障りの時は神事はしないのが普通だからね。
 血を流してるのはやっぱり清浄じゃないからって」

「そういえば巫女さんて処女じゃないといけないんじゃないの?」

「うん、それもそれが普通だね。
 だからせつらさんは残念だけど………」

「ちょw みこともじゃん!」



「うん………」





そういってみことが俯く。

ああ……、、、

ああ、そうだ。そうだった。

自分の意志で男と寝た私と違い、みことはレイプされたのだ。

私の馬鹿、無神経。
ど阿呆。
もう死んじゃえばいい。





「ごめんなさい……、ごめん、みこと………ごめん……」

「なーんてね!全然気にしてないけどw」

「え?」

「確かに私は巫女だけど、そういう意味で言うなら陰陽師に近いし、
 まあ、せつらさんが思ってるような、一般的な普通、は、
 いろんな宗教とか流派があってその一部、なだけだから、
 あんまりそういう〜〜〜でないといけない、みたいなのは無いんだよ。
 あ、でも心と形の調和は大切だから、礼式は覚えてもらわなきゃいけないけど」





目に見えない心の姿を形にして表現する、それが礼式。

簡単に例えるなら、どんなに大切な想いを込めてありがとうやごめんなさいを言っても、もし態度がふんぞりかえっていたらそれは伝わらない――――――、その時の心の姿を目に見える形として表現すること、それが『礼』なのだ。





私は立ち上がり、教えて貰ったばかりの、礼を実践する。



ほんとはこれは、神前での礼式。


でも今は、目の前にいる彼女を、大切な大切な人であることを表現するために。










「とてもよく、伝わってきました」










みことが笑顔で褒めてくれた。



















































第91話:礼
終わり

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  第92話:修行
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