12月19日―――――――――
私が御巫の家にきてから半月以上が経過していた。
御巫の家を取り囲む樹々は、優に樹齢数百年を数えるものばかりらしく、そんな威厳に満ちた大自然に囲まれて過ごす生活は、私の意識を何度も押し潰し、引き延ばし、変容させていった。
「せつらさん」
みことが私を手招きする。
少し恥ずかしそうな、それでいて悪戯っこのような嬉しそうな表情での手招き。
それは逢瀬の合図。
人目を盗んで交わすキス。
とても刺激的な、ちょっと背徳的な行為。
お祖父ちゃんにばれたら間違いなくひっぱたかれる、多分それだけじゃ済まない、とみこと自身言っていたのに、どうしてもやめられない。
この家にきてもう半月。
もし見つかれば、どうなるかくらいは私にも分かっている。
けれどやめられない。
神前、なのかもしれないけど、でも、うん、やめられない。
だって、好きで好きで、どうしても求めてしまうんだもの。
でもその日は違っていた。
手招きに応じて近づくと、みことは私の前を歩きその先へと進んでいく。
本殿の、奥へ。更に奥へ。
「みこと、どこいくの?」
小声で訊ねた私に、みことが人差し指を口元にあてて応えた。
「静かに。こっちきて――――――――――……」
「うん」
みことは巫女頭であり、幼少の頃から巫女の修行を積んできた叔父たちを凌ぐ―――次期当主――――という立場にあるらしいけれど、それでもやはり、一目を忍んで奥へ入る、という行為に、なにか悪いことをしているという感触を拭いきれなない。
「まだ、いくの?」
修行の中、自分の心はどうやらかなり弱いらしいと気付いたものの、それでもそれなりに据えた根性に、みことのお祖父さんからはそれなりの評価は貰っていた。
しかし修行のときの彼の怖さは分かっているつもりで、見つかったらと思うと、とても看過できないほどの恐怖心がある。
みことは次期当主なんだし、と言いきかせるものの、今の私はまるで、悪いことをして先生にばれないか心配でならない生徒の心持ちだ。
やがて、大きく開けた大きな仏像がある部屋へと入った。
それは高い天井に届くほど大きな仏像で、どうやらここが御巫の本殿最奥らしく、
ここまで足を踏み入れるのは初めての経験だった。
(つまりこれが御神体―――?)
しかし彼女はその巨大な仏像の裏へと回り込み、更に手招きをした。
「こっち――――――」
「え………?」
私はみことに誘われるままついていき――――――――――……
まさか仏の裏で隠れてえっちしようっていうの、なんてドキドキ不埒なことを考えた私はまだまだ修行が足りないのかもしれない。
驚いたことに、その裏には狭い隠し通路が設けてあり、別の部屋へと繋がっていた。
私の地理感覚ではもう、ここが御巫の家のどの辺りなのか見当もつかなかった。
一人ではちゃんと自分の部屋に戻れるかさえあやしい。
そこは誰も足を踏み入れなそうな場所であるのに、煌煌と蝋燭が灯っていた。
無数の燭台が壁だけではなく、部屋中に置かれていた。
にもかかわらず、その場の空気は淀みなく、冷たく、澄みきっている。
調度品も、窓も、扉さえも、何もないその部屋の中央に、一体の像が祀られていた。
みことがその前で足を止める。
「せつらさん。
これが、御巫の御神体、だよ―――――――――――――――…」
「へぇ、、」
私は促されるままその像を見上げた。
それは、女の像だった。