深夜2時――――――――――……
暖かい温もりに包まれて―――――、私はそっと目を開けた。
すぐ目の前には小さな寝息を立てた可愛いみことの顔があった。
なんて愛らしい、愛おしい、存在なのだろう―――――…………
それは胸を締め付け、体に支障をきたすほどの苦しい感情。
一歩間違えは容易く狂気へと変貌しかねない、激しい恋慕。
こんなにも近く、体を寄せ合い、その肌に触れているにも関わらず
でもその存在は遠く――――――……
これ以上、彼女の傍にいてはいけない。
私には、彼女の傍にいる資格など、初めから無かったのだから――――――……。
私はみことを起こさないよう、そっと布団を抜け出した。
包まれていた温もりが消え、夜の冷たい空気が肌を刺す。
服を着替え、コートをはおり、部屋を後にする。
御巫の屋敷は静かに寝静まっていた。
庭に置かれた松明だけが、静かに燃えている。
物音を立てないよう、そっと、玄関へと向かった。
靴を履き、雪道へと足を踏み出す。
私の心が悲鳴を上げていた。
泣き叫んでいた。
みことから離れることを嫌がって―――
彼女の存在が遠ざかっていくことに―――――――――絶叫していた。
それはあまりにも痛々しい―――――――――……悲痛の叫び。
それでも、私には彼女の傍にいる資格はないから――――――………
彼女はきっと怒るだろう。
もう許してくれないかも知れない………。
嗚呼―――、、、
私はもう二度と、
彼女に辛い思いをさせたくなかったのに……………。
今までありがとう、みこと―――――――――……。
俺は鬼の力を解放し、山を駆けた。
拭っても拭っても涙が溢れた。
女などただ、欲望の捌け口でしかなかったのに。
その女と離れるのがこうも辛いなんて。
ふざけるなよ―――!!!
ラクサラ―――――――――――――――!!!!!
ラクサラ、お前こそ、お前こそ本当の鬼だ。
おまえは俺さえ幸せになれば、他の誰を犠牲にしようと構わないというのか。
俺を救うためなら、他がどうなろうと構わないというのか――――――!!!
御巫を犠牲にしてまで、俺を救おうというのか――――――――――――!!!!!
認めない。
俺は絶対に認めない。
例えそれが御巫の意志であったとしても――――――――――
絶対に。
鬼の四肢を備えた俺にとって、険しい山道など、小さな雑草の上を走るに等しかった。
俺は駆けた。
行く当てなど無かった。
これから先、どのように生きるかも、分からなかった。
それでもどうしても、彼女の傍にいるわけにはいかなかった。
御巫の血を引く―――――――――
俺を救う宿命を背負わされた、少女の傍には――――――――――――………
第93話:御神体
終わり