4日間――――――――――
殆ど寝ずに逃走を続けていた俺は、肉体的にも精神的にも、完全に限界を迎えていた。
俺は山の中を通る一般道へ降り、とぼとぼと歩いていた。
既に雪は無いが、12月の寒さは容赦がない。
辺りは真っ暗で、ふらふらで何も見えなかった。
あいつらの気配を探る気力さえ、もう無かった。
もう俺の体にはマッチ一本ほどの熱もないかもしれない。
それでも己の体内に宿る、僅かな熱を感じてはいたが、今や自分の呼吸音ですらどこか遠くに聞こえていた。
体が鉛のように重かった。
歩いている、つもりではいるが、もう実際に前に進んでいるのかさえ、確かではなかった。
体に力が入らない……
腹ぺこだし………
もうなんでもいいから、眠りたい…………
お願いだから……、、、
もう.....
眠らせて...............
その時前方から凄まじい轟音が俺に迫ってきた。
やばいな、と思ったものの、俺はもう顔をあげることさえできなかった。
ただ、1歩でも前へ、1歩でも前へ………、俺はとぼとぼと歩き続ける。
それがヘッドライトの光だと分かったのは、目の前で止まって、その背に人が載っているのを見てからだ。
俺は必死に思考する。
この身の終わりを感じながら、それでも―――――――――、、
最後に、
近づかれた瞬間、
最後の最後、刺し違えてでも、一人を道連れに―――――――――…
少しでもみことの安全を確保する為に――――――、、、
そう考えた、が―――、最早俺の意識は、本当にその肉体に宿っているのかさえあやしく、
体が動いてくれるかは分からなかった。
「せつ……ら………!?」
「ほんとだ!? せつらじゃない!?」
「せつらだ、せつらだよ―――!!
一体どうしたんだよ!?
ずたぼろじゃないか、一体誰にやられた―――!?」
目の前であげられた声だけで倒れそうになった俺は――――――、その声音に確かに懐かしさを感じた。
その声は……羽織…?
ということはこの群団は―――――――――、神羅雪―――!?
「せつら――――――、
全く―――……、あんたと会う時はいつもぼろぼろだね―――」
(げっ―――――――――七種いつき!!!)
まさにすぐ目の前で凛と言い放った女に、俺の心臓は飛び跳ねた。
殆ど止まりかけていた心臓が、再び動き出す。
神楽歌織と七種いつき―――――――――……
あの時は俺が勝ったが、正直あれは運が良かっただけだ。
それにあの時―――もし空見翔の訃報が届かなければ、俺は神楽に負けていたかもしれない。
勿論、運も力量のうち、には違いないが、今俺が羅刹に戻ったとして、目の前の女に勝てるかは正直怪しかった。
それに――――――………、
こともあろうか、俺はその後、彼女をレイプしたのだ。
羽織の姉も一緒に―――……、、、
飛鳥のお兄さんの、大切な人だったのに――――――..........
「せつら……?
なんだい、口をきくことさえできなさそうだね―――」
バイクのヘッドライトの逆光で彼女の表情は見えなかった。
だが、彼女が俺の目の前で、優しそうに微笑んでいるのが、俺には分かってしまった。
俺の中に沸き起こる罪悪感と苦しみ。
体さえ動けば、今すぐ地面に頭を擦りつけ、涙を流して赦しを請いたかった。
そうか、お前も俺の所為で深い傷を負って―――………
その所為で磯姫なんて、欲しくもない異名を手に入れて――――――………
だからお前はあの時、身体を張ってまで俺を止めようとしてくれたのか―――..........
「言わなくても分かるよ。
どうせまたあの奇妙な連中と闘ってるんだろ?
安心しな、うちらがどこへでも送っていってやる。
あんたはまだ大切な仲間―――だからね、せつら」
「いつ…………さん………」
こともあろうか、俺は、俺のことを心底恨んでいるであろう強敵の言葉に、
すっかり安心してしまい
俺の意識は、そこで途切れた――――――――――――――――――
(また、貴女に借りができちゃったね―――――……いつきさん………)
第95話:逃走
終わり