悠理の家へ行ったことはないけれど、彼女の家の方角は分かっている。
私の足ならすぐに追いつけるだろう。
家を出たところで、丁度仕事から帰ってきたお父さんと擦れ違った。
「おい、せつら!こんな時間にどこへ行くんだ!?」
「お父さんお帰りなさい、ちょっと走ってくる―――!
すぐ戻るから心配しないで!!」
日は沈み辺りは暗くなってるとはいえ、街灯はそこかしこにあるし、この時間は帰宅途中の人も多い。
恐怖はなかった。
何より、あの悠理がこの暗い中を一人帰っているのだ。
私はなぜか走りたい気分だし、彼女を送ってから、家まで走って帰ればいい。
湧いた焦燥は消えないままだった。
その焦りに蹴飛ばされるように私は走り続けた。
おかしい、もう追いついてもいい頃なのに―――……。
それとも悠理は別の道を行ったのだろうか?
街灯のない真っ暗な道にさしかかり……、怖くなってやっぱり帰ろうかと思った時―――、
遠く街灯の下を歩く1人の少女が見えた。
悠理に違いなかった。
私が一気に駆け寄ろうとした時、どこから現れたのか一台のバンが現れた。
その車体は真っ黒で、ライトも付けていなかったから気がつかなかったのだ。
バンは悠理の隣を併走したかと思うと、サイドのスライドドアが開き
「悠理―――!!」
突然目の前で起こったその光景を、私は信じられなかった。
信じたくなかった。
それはまるで悪夢のようだった。
目の前で悠理が男達に拉致されようとしている。
走ろうとしても縺れて進まない足が、これは夢だと言っているようだった。
夢であって欲しかった。
「悠理っ―――――――――!!!」
悠理を強引に引き摺り込み、走り出そうとした車の後ろに私は思いきりスニーカーを投げつけた。
ガン――――――
見事命中すると、車がその動きを止めた。
ドアが開きゾロゾロと人相の悪い男達が降りてくる。
怖くなったが既にアップされた肉体が幾分か恐怖を和らげる。
が、怖い、怖い、怖い。
怖いものは怖い。
でも、悠理を連れて行かせるわけにはいかない。
「誰かっ―――、助けて、誰か―――、助けて――――――!!」
私はあらん限りの声で叫んだ。
人さえ来れば―――、人の目さえあれば男達も迂闊なことはできないはずだ。
悠理、悠理、悠理―――――――――!!
「いやっ、止めて――――――!!」
しかし、助けが来るよりも早く、私はあっというまに男達の手に捕らえられ、車の中へと引き摺り込まれた。
あっという間に口を塞がれ、腕を縛られ、車の中に転がされた。
そこには気絶しているのか、ぐったりと目を瞑ったままの悠理が倒れていた。
(悠理――――――!!!)
ドアが閉じられ、車はあっという間に走り出していた。