自分の身に起きたことが信じられなかった。
目の前で起きていることが―――、、、
頭の中は完全にパニックで、私ができるのは叫ぼうとすることだけで、でも口は塞がれていて―――…………、、、
車のエンジン音が絶望の歯車となって私に響いていた。
藻掻き疲れ、ぐったりした私は懸命に脱出方法を考えたが何も思いつけなかった。
なにしろ少し走ろうと思ってそのまま飛び出してきた所為で、財布は勿論、携帯すら持っていない。
目の前で男が悠理のバッグをひっくり返していた。
その中に入っていた携帯電話を取り上げる。
「そっちの女の携帯もよこせ」
男達は私の携帯も取り上げようと、体中に手を伸ばした。
彼らは遠慮なく私の胸に触れ、下着の上からあそこを摩ってくる。
暴れようにも車内は狭く、すぐ隣には意識のない悠理がいて―――
私は抵抗らしい抵抗さえできず、車は20分ほど過ぎてようやくどこかへと停まった。
「おら、降りろ―――」
まるで放り出されるように私は車から落とされた。
そこはどこかの工事現場のようだった。
まるで人気がない。
周囲は高い壁で覆われ、どこかも分からない。
そこら中、シーツとカバーがかけられ、ただひたすら荒廃している印象だけが目立った。
気を失っていた悠理がその頬を叩かれ、無理矢理意識を覚醒させられる。
気がついた彼女は暴れたが、徒労だった。
私の姿に気付いた悠理が、少しだけ安心したような、そして悲しい瞳を向けた。
「ついてこいよ、メス豚ども」
私たちに拒否権は無く、男達の言葉に従うしかなかった。
口と腕を塞がれた私たちはまるで奴隷のように男達に連行された。
私と悠理はただ必死に寄り添っていた。
彼女との触れあいだけが、ほんの僅かな救いだった。
怖い、怖い、怖い、
助けて、飛鳥――――――、、、
私たちが通されたのは、奥の一室だった。
四面は剥き出しのコンクリートの壁に覆われ、その暗い部屋に蝋燭と、工事現場で使うようなランプが煌煌と光っていた。
数人の男達の真ん中に、1人の男と、それに寄り添う少女が1人―――。
どれも明らかに不良と分かるイカれたなりをしているが、少女だけはまともな一般人であるようにみえた。
「立開サン、連れてきたぜ。
しかも東江の女をだけじゃなく、空見の女も一緒だ―――間違いねぇ」
ボスらしい男がぬっと立ち上がった。
怖い、怖い、怖い―――……
「ご苦労」
男は近づくと、両手で私たちの胸元を掴み恫喝した。
「いいか。騒ぐんじゃねぇぞ。
幾ら悲鳴をあげてもどうせ助けは来ない―――。
俺はうるせぇのが嫌いなんだ。
騒いだら殺すぞ」
その低い声は本当にどすが利いていて、まるで本当に腹に刃物を当てられ、脅されている気がした。私たちが頷くと猿ぐつわを外された。
「あんたたち何な――――――」
バッチーン―――――――――!!!
私が叫ぼうとしたら思いきり頬を殴られた。
意識が飛びそうになるほどの容赦ない張り手に、私は全身を恐怖で侵された。
飛鳥っ――――――、飛鳥っ飛鳥っ飛鳥っ、
「はぁっ、はぁっ、立開さん―――、
早く犯らせてくださいよ」
「るせぇッ!てめぇは黙ってろ――――――!!」
「すっ、すいません―――」
立開……立開……立開……、
飛鳥から聞いたことがある。
確か撲斗高校を仕切っている不良―――……、、、
「お前が空見の女か?」
「…………」
私は何も言えなかった。
ただ怖かった。
答えなければまた叩かれる気がして、でもなんて答えていいのか分からなくて。
男は何も言わず、次に悠理へと訊ねた。
「お前が東江の女か?」
「…………」
悠理もまた答えなかった。
「俺は撲斗高校の頭張ってる立開ってモンだ。
今日お前らにきて貰ったのは他でもねぇ。
以前の借りを返すためだ」
「か、借りって……?」
悠理が消え入りそうな声で訊いた。
立開がゆっくりと、後ろに立っていた少女を指さした。
「陽菜―――、俺の女だ。
昔、悪鬼の連中に―――、てめーらの彼氏にレイプされずっと入院していた。
やっとだよ、やっと退院できたんだよ。
だから――――――、、
今日はあん時のお礼をしようとおもってな。
てめーらをこうしてこの場にご招待したってわけよ―――――――――」
その時、その部屋に不意に嫌な匂いが立ち込めた。
それが何かはすぐに分かった。
尿の匂い。
横で震える悠理が、失禁したのだった。
「はっ―――、こいつ漏らしやがったぜ……」
「はえーよwww」
「東江の女は股が緩すぎのようだなwwwwwwww」
周囲にいた男達が馬鹿にしたように笑った。
立開が嬉しそうにその顔を歪めた。
「おいおい、随分気がはえーなぁ、股を濡らすのはこれからだぜ……。
東江の女―――――――――」
私も震えを堪えるのに必死だった。
殴られた頬が、熱く、熱く腫れている。
「お前、空見の女―――、てめーに1つ訊きてーんだが……、
羅刹の妹ってのは本当か―――?」
私は答えに迷った。
ここでそうだと言ったらどうなるのだろう。
鬼の威を借れるだろうか?
既に悪鬼は解散した。
羅刹もどこかへと消えてしまっている。
しかし飛鳥や、そしてこいつらの中にはまだ生きているのではないか。
それは賭けというより、私がその場で唯一縋れたものだった。
「そうよ……、もし私たち手を出したら、兄がどうするか―――、
分かってるの……?」
私は震える声で言った。
足ががくがくと震え、今にも倒れてしまいそうだった。
私の言葉に立開は満足そうに笑った。
「犯れ――――――」
周りにいた男達の歓声があがった。
「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ――――!!! 助けてっ、誰かっ、誰かっ、助けてっ―――――――――誰かっ、誰かっ―――助け……」
長い、長い―――……、地獄の始まりだった――――――……
第51話:明けぬ夜
終わり