「これ、なんなの……?
全部、あの女の、顔?」
私は、天井から壁まで辺り一面に写真が張り巡らされた異様な光景を目にしていた。
それはあまりに異常な……、、、
しかし何よりも異常なのは、その女の顔だった。
それは張った当人は勿論、見ているこちらまで気がおかしくなりそうな、そんな―――……、、
「精神病者―――……」
思わずそう呟きたくなるほど、その一部の写真は歪な造形をしていた。
「数日前、目覚めたらこんなになってた。
本当に俺、頭がおかしくなりそうだったよ」
それは確かにあの女の顔だった。
私から飛鳥を、名前を奪った―――、女。
しかしその写真の大半が、首の繋がり、目、頬、鼻、あるいは口、どこか歪にゆがんでいるのだ。
「ねぇ、これ、なんなの……?」
「アイコラって知ってるか?」
「ううん」
「アイドルコラージュって言ってな、アイドルの顔だけ切り取ってAV女優なんかのヌードと切り貼りすることをいうんだけど……。
俺はそれをせつらでやってたわけよ」
「じとー………………」
「おい、そんな目で俺を見るな!
―――という方が無理があるか、ハハッ」
「それ、で……、どうなったの?」
「勿論ここに貼ってあるのは全部せつらの顔なはずなんだが……、、、
コラージュっていうのはちょー緻密な作業なんだ。
それこそドットレベルで気にするくらいの。
ドットっていうのはモニタでいう解像度―――、つまりピクセルのことなんだけど……
って、そんな説明はいいか」
「うん」
「言っておくが俺はこんな出来の悪いコラなんて絶対に作らない。
なのにパソコン内のデータも全部これと同じだった。
でもな、コラージュってのは自分でライン修正をすることが結構あるんだ。
まあ……、言ってみれば女の子のする化粧みたいなもんかな」
「難しい話はいいよ、つまり、どいうことなの」
「つまり、だな―――……、」
伊本くんがPCを操作する。
画面に映し出されるいくつもの画像。
「ま、ここに張ってある写真の殆どは、今、学校にきているせつらの顔、だな」
「あ……、うん」
ディスプレイにあの憎い女の顔が浮かび上がる。
「で、逆におかしな部分、つまり、俺が補正したもの合成していったら………、こうなった」
「私――――――!!」
それもまた歪。
不完全だった。
でもそれでも、明らかに私と分かる、顔。
「つまり―――……、これは数日前、突然、せつらの情報があの女に書き換えられたってことを意味している―――……。だから俺はさっきの魔法って言葉に合点がいった」
「なるほど……。
伊本くんって、私のストーカーだったんだ……」
「それを言うか」
「でも、救われちゃった」
「オカズにしたっていってたの、あれ嘘じゃないからな」
「ううっ―――……」
つまり今、壁に張り巡らされてるような、エッチな画像に、私の顔をくっつけて―――……、、、。
ううっ、ど変態……。
「で、そうだな……、魔法ってもんがどういうものかは分からないけど、
例えば―――……、、例えば、だぞ?
世界の全ての情報が0と1で構成されていたとする。
そこにせつらという存在が000011であり、
あの女の存在が001111であったとすると、
世界の中でせつらを構成している情報000011を全て、001111に置き換える。
そうすればせつらという情報がその女に取って代わられる。
これはせつらという名前、せつらという造形、それぞれの情報を全て置き換えていった結果なのかもしれない。
まあその魔法ってのが―――本来の情報しか書き換えられないものなのか、そう認識されるものに対してまで効果が及んでいないのか、あるいは単に不完全なだけか―――、それに今のせつらの情報がどうなってるのか―――、そういったことは分からないけど」
「すごい……、伊本って頭いいの……?」
「いや、悪いけどせつら……、俺が言ってるのは単なる比喩。
今の状況を、何となくそれっぽく説明して見せただけに過ぎない。
重要なのはそれを元に戻す方法、それに対抗できる手段を知っているかどうか、だよ」
「そっか……。
でもありがと、凄い嬉しい」
「俺は思うに、本当の魔法使いはお前じゃないかって思う」
「え?」
「だって、すぐに俺に魅惑の魔法かけるし……」
「え?」
「可愛すぎだって言ってんの」
「ううっ、そんなこと言われても困るよ……」
「さあ、次はせつらの番だぜ?」
「え?」
「一体何が起きたのか、話してくれ―――」
「うん」