翌朝――――――…………





「おはよ、伊本」

「お、おはよぅっ! せ、せつら―――!?」

「声、裏返ってるよ……(笑)」





「あれ、せつら寝なかったのか…?」

「うん……」

「俺が寝る前に見た姿勢から変わってないのがちょっと怖いんだけど」

「…………」

「もう何日も寝てないんじゃないか?」

「うん……眠りたいんだけど、全然眠気がこないんだもん……」

「それで一晩中椅子に座ったままぼーっとしてたのか……、、あ、悪い」

「ううん、別にいいよ、なんか私、感覚が鈍くなってるのか、
 滅多なことじゃもう傷つかないかも」

「愛してるよせつら」

「あ、ごめん、それはちょっと辛い」

「…………」










「伊本、学校は……?」

「はぁ?当然休むに決まってるだろ」

「そんな、駄目だよ」

「気にすんなって、俺がせつらといたいだけだし」

「私のことはいいから、学校行ってー」

「いいんだよ、あー、腹いてー、学校いけね」

「ぶー」




















「あのさ……、私、下着とか洗いたいんだけど……。
 お風呂場とか借りてもいいかな?」

「うーん、それってつまり、せつらが俺の前で脱いで、俺の前で下着を洗って、俺の目の前にその下着が干されるってこと?
 しかもその間下着つけずに、、、、やべ、チンコ勃った」

「ううっ……」

「あーあ、これでせつらが俺の恋人だったら世界薔薇色なんだけどなぁ」

「ごめんね……」

「ま、あと少ししたら母親仕事にでかけるからさ、それまで待ってくれるか」

「うん」




















「今日は曇りかぁ―――、、なぁ、雨降ってなかったら昼飯どっか食いに行こうぜ。
 しかし、これ乾くかな……?くんくん」

「ちょっ、下着に鼻付けるのやーめーてー!」

「はぁはぁっ―――、やっべ、チンコ痛ぇ。
 こりゃ一度抜かないと無理だな……。
 手伝ってくれる……?」

「無理無理ぃぃ……」



それから信じられないことに、伊本は私の目の前で射精した。
私が下着を着けず、シーツにくるまってるのを見ながら、それだけで…………、、、。


あー、もー、まじ、変態。





彼には凄く感謝してる。
それは、ほんとに、もう言葉にはできないくらいに。


でも、、、


私は、私のこの体は彼だけのものだから―――……










「しっかし―――、すっげぇ曇天だな。
 まるで灰でも降ってきそうな雰囲気だぜ―――……」





いいから早く、ズボン穿いてくれないかな。










え――――――…………?





灰?





今、彼、灰って言った…?










ある言葉が―――、私の中に甦る―――…………










「この肉体は…………、、、この魂は、、、、
 たとえ灰になろうとも、
 その最後の一片まで、、、、彼に、、、、捧げる、、、」


「なにそれ?」


「私が、言った言葉……。
 思い出した―――……、その後、だ、あの女が現れたの―――……、、、
 魂の譲渡とがどうのって……言ってた」


「魂の譲渡…………?
 捧げる……、譲渡、、、
 契約……?
 言霊ことだま……みたいなもんかな?」


「言霊?」


「言葉の持つ霊威のことさ。昔から言葉にはそれ自体が力を持つって信じられてたんだ。
 っていうか現代でも結構通じると思うけど―――。
 言葉にしたことが現実になってしまうなんてことは結構あるんだよ。

 例えば―――、

 せつらは俺のちんぽを咥える
 せつらは俺のちんぽを咥える
 せつらは俺のちんぽを咥える」


「もう!真面目に話してるんだよ!」


「俺もだよ。
 一度放った言霊は死ぬまで生き続ける。
 言葉自体がそれを現実化させようと働き続ける。
 それが言霊の力さ。
 だからせつらはあとで俺のちんぽを咥えるかもしれない」


「ええっ……、そんなの、ないよ……。
 どうすれば言霊を消せるの?」


「それは―――……、言変えコトカエ跳ね返しハネカエシなんかをするみたいだけど、
 ここは単純に『私は伊本のちんぽを咥えない』って言霊を放てばいいんじゃないの?」


「ううっ――……もういいよ」


「言霊の力を舐めない方がいいぞ?
 でないと本当にちんぽを舐めることになる。   (かもしれない」


「ううっ……、、私は伊本のちんぽを咥えない、私は伊本のちんぽを咥えない、私は伊本のちんぽを咥えない……」


「フフッ。実はな―――、
俺はただ、せつらの口から伊本のちんぽって言葉を聞きたかっただけだ。
だから俺はさっきこっそり『せつらが伊本のちんぽって言葉を口にする』という言霊を放った。
その言霊が俺に会話誘導させ・・・・・・・・・・・・・今のせつらを現実化させた・・・・・・・・・・・・


「…………―――は!?」


「っていうのは勿論嘘だが、放った言葉というのは、その時だけじゃなく、明日、明後日、それからの人生そのものに影響するほどの力を持つって言われてる。
 だから日々の生活で言霊は蓄積していく―――……」


「もう……、伊本って、よくわかんない……」


「はは、わり。
なるべく分かりやすいたとえを出そうと思ったんだけどな。
まあ―――、何が言いたいのかっていうと、せつらは自分の言った言葉で・・・・・・・・・・・・・何かしらの契約みたいなモンを現実化させちまったんじゃないか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってこと……。
勿論、これは断片的な情報から考えたかなり強引な推測にすぎないけどな」


「私が言った、言葉―――が……」


「まあ、思い出したら何でも言ってよ。
考えていこうぜ、二人で」


「うん……」




















「もう乾いたっかな〜♪」





「さ―――わ―――ら―――な―――い―――で――――――!!」




















それから伊本と二人でお昼を食べに出かけた。





いつの間にか空は晴れ、眩しい光に私は何度も目眩を覚えた。










午後の日射しに、あまりに穏やかな昼下がりに、私は突然の虚無感に襲われた。










私はなぜこんな場所にいるんだろう。





私は一体何をしているんだろう……。





どうしてこんなことになってしまったのだろう。





私の世界は、どこへいってしまったのだろう……





私は何を―――……、、、




















秋の訪れか、少しだけ太陽の日射しが和らいでいる気がした。


















































「ねぇ―――……」

「ん?どうした?」

「インターネットってさ……、どんな情報でもあるの?」

「まあな、無い情報は無いっていうくらいある、かもな―――。
 まあ、問題はその情報にたどり着けるかどうか、だけど」



「じゃあさ……、魔術とか呪いとか、そういうのもある……?」



「…………魔術?」




















「私の名前取り戻すには、あの女を殺さないといけないと思うの――――――」




















「…………」





「でもあの女は普通じゃないから―――……、、
 私から※※※の名を奪ったから―――……、
 だから対抗するには魔術みたいな力が必要だと思う」





「本気であの女を殺したいと、そう思っているのか?」





「うん。」





「そうか…………、、、」





「伊本は、協力して………………、、、、くれないよね……。
 私がしようとしてるのは殺人だもんね、あはは……」




















「なら、一週間だけ時間をくれないか?」










「え?」










「一週間後―――、




 もし、その時もまだせつらが、本当にあいつを殺したいと思っていたなら―――、





 その時は、俺が――――――その女を殺す―――――――――」





「な……、何を言ってるの―――!?」





「そんなこと、せつらにさせられねーって言ってるんだよ。

いくら馬鹿な俺にだって分かるよ。
他人が今も自分になりすましていてのうのうと暮らしてるんだ。
大切な人の隣で笑って、その人の笑顔を貰ってるんだ。

そんなの―――殺したいって思って当然―――、いや、むしろ殺さずにいられる方がおかしいくらい、当たり前の感情だよ。
 
でも一週間、一週間だけ、時間を空けてくれ。
その時になってもまだ・・・・・・・・・・お前の殺意が消えていなかったらその時は俺がやる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

毒殺でも刺殺でも絞殺でも撲殺でも―――とにかくなんとかして殺してやる。



俺の――――――全存在を賭けて――――――約束する」










「――――――……」










私は、彼の言葉を笑おうとした。





いや本当は私は、泣こうとしたのかも知れない―――。










「本物は無理でも、改造拳銃くらいなら手に入るだろうし―――」










彼は笑っていなかった。




その目はどこまでも本気だった。





彼は本当にやるだろう―――私の為に、私の代わりに。










ばっかじゃないの―――、





なんとかそう、言おうとした、





彼のあまりに真摯な想いをぶちこわしたくて、





茶化してしまいたくて、





でも、私の口は動いてくれなくて、




















彼は私を理解し、止めようとし、救おうとしてくれている……。




















でも、いつまで経っても私の顔は硬直したまま動いてくれなくて――――――、










だから私はただ、小さく、頷いた。



















































第57話:足跡
終わり

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  第58話:交睫
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