私は靴を履いたまま海へと入った。
鉛のように重たくなっていた足に冷たい水が心地良かった。
海水が膝を濡らし、あっというまに腰まで濡らした。
激しい波に煽られ、それだけで私は水の中へ倒れ込んでしまう。
問題ない。
水を吸った衣類が重みになってくれるだろう。
海水が口に入り込み私は咳き込んだ。
苦しい。
でも構わない。
もっと奥、もっと奥へ――――――……
「えー……、、流石にそれは止めて欲しいかも―――……」
その時、後ろから女の声が響いた。
それはなぜか波の音を避けて、くっきりと私の耳に届いていた。
けれど私は歩みを止めなかった。
「目の前でそういうことされるのは―――……ちょっと困るかなぁ、、、」
死なせて欲しい。
もうこの世界に私の居場所はない。
止めないで。
私は両手で必死に水を掻き、奥へと進む。
「やめろ、と言っている――――――」
凜とした、女の声が響いた。
その声を聞いた途端、私の体が動かなくなった。
「こっちにきなさい」
私の体は……、、
私の体は――――――――――――!?
信じられないことに、私の体は、まるで女の声に引き寄せられるかのように、方向を変え―――…………
浜辺へと向かって歩き始めていた。
なんで―――!?
その時、私の体は波に掬われ、水の中に倒れ込んだ。
波に攫われる。
流される。
私の体力は既に限界に達していてそれに抗うことはできない。
ああ、
よかった、
これで―――――――――
ザッッッッ―――――――!!!
突如、突風が吹いたかと思うと、浜辺まで何メートルもあった波が全て――――――、
引いていた。
波が私を砂の上に吐き出す。
私は目の前の光景が信じられなかった。
まるで特撮映画の1シーンでも見てる気分だった。
一体なにが、
まさか、
女の振った刀が、波を薙ぎ払ったとでも言うの――――――!?
もしかして―――……、
私はもう死んだの?
私はもう死んで、あの世に辿り着いたの―――……?
浜辺に立つ女の手招きのままに、私は砂の上を歩いた。