「ごめんね……。
貴女がどうなろうと、私には関係がないんだけど―――……」
女が申し訳なさそうに謝罪した。
「げほっ、げほっ―――、げほっ―――」
途端、私の体が現実感を取り戻す―――……。
生きている―――、生きている―――……、、、
なんで、なんで、
「なら、なんでっ―――!!
なんで、止めたのよっ――――――!!!」
「うー、そんな怒鳴らないでよう―――……、
いや、だって、ほら、目の前で、トートイじんめいが〜〜とか、さぁ―――」
「ううっ、ううっ―――…………」
「うん、ごめんね。
余計なお世話だとは思ったけど、昔の自分を見てるようで、ちょっとキツかったのよね……」
「げほっ、ううっ、、」
「それに貴女まだ若いじゃない?
しかもかなりの美人さん。
絶望して死ぬにはちょ〜〜っと早いんじゃないかなぁ―――?」
「あなたには、関係、無い……」
「うん、関係……無い、関係ない―――ね。
そう、私には関係が、ない―――!!
よし、分かった。
もう止めない。
じゃ、もっかいいこっか。
今のはリハーサルだったってことで――――――!!」
「……………………」
私は私の自殺を止めた、ふざけた女を睨みつけ、再び海へと向かって歩き出した。
「あ、名前だけ聞かせてくれるかな?
一応これでも神に仕える身だからさー、
ちょっとは供養してあげられるかも〜〜〜」
「神に仕える身で……、その態度ですか……」
名前―――……
私は自分の名前を言うことができない。
が、彼の姓を纏い―――、薫が与えてくれた名を最後に叫ぶのも悪くない気がした。
だから私は彼女に背を向けたまま大声で叫んだ。
「空見刹那ですっ! 供養よろしく――――――!!」
「へぇ……、、、私は空見歌織。あはは、奇遇だね」
「え……?」
私は歩みを止めた。
波の音で聞き違えただけかも知れない。
けれど彼女は今、空見、と言ったような――――――…………
でも、
だから何。
それがどうしたっていうの。
奇遇も奇遇、ただの偶然。
っていうかどうせ嘘でしょ。
この女は、苗字が同じだとかいって無理矢理話題をつくり、私を引き留めるつもりなんだ。
振り向いちゃ駄目。
振り向いちゃ駄目。
でもそれは―――……、
私の中に芽生えてしまった、きっと最後の好奇心―――…………。
私は少しだけ首を傾げ、叫んだ。
そして―――すぐに彼女の言葉に驚愕することになる。
「でもべつに、空見飛鳥を、知ってるわけじゃないでしょ?」
「へー、弟クンもう結婚したんだぁ!
こんな美人さん貰うなんてやるなぁ!!
結構いい男になったのかな?
でもどうして、そのお嫁さんがこんなところで入水するのかな―――?」
「弟クン……?」
「そそ。私はその弟クンのお兄さん・空見翔のお嫁さん♪」
「えっ…………!?
でも、飛鳥のお兄さんは死んだはずじゃ!?」
「そうね……、だから、私は、お嫁さんになりそこねた……、、
勝手に空見を名乗る、イタイ女、かな、あはは―――……」
“昔の自分を見てるようで辛かったのよ―――”
私と同じ―――、、、
空見―――、歌織―――……
そこまで、私と同じ……、、、。
私は彼女へと向き直った。
「私も同じ、です……」
「なにが〜〜?」
「私も飛鳥のお嫁さんになり損ねました……」
「え、飛鳥くん亡くなったの…………?」
私は黙って首を横に振った。
「飛鳥は、ある女に奪られました。
私の本当の名前は羅城※※※……、私の名前も奪られたので発音できません……」
「なにそれ、ちょっと摩訶不思議?
ねぇねぇ、刹那ちゃん、おねーさんのうちに来ない?
もう少し話をしようよ!
死ぬのはそれからでもいいでしょ?
海には近いしいつでも飛び込めるんだし――――――!!」
入水を止めた彼女が恨めしかった。
しかも止めたくせに、ふざけきった態度で、人道的に仕方なくって感じが丸出しだった。
面倒なことには拘わりたくないって感じだった。
でも今は、その綺麗な顔に浮かべる表情を見ているとなんだか―――、、、
それにこの人は飛鳥のお兄さんの―――、、
「じゃあ、少しだけなら―――……」
私がそういうと彼女は嬉しそうに親指を突き出し、それからがっしりと私の肩に腕を回した。
「交渉成立〜〜!
よーし、空見の嫁同士!
今日は呑むぞぉ〜〜〜〜!」
「え?」