「いも―――、あ、薫く―――
『せつらっ!?
せつらなのか―――!?
テメェ今どこにいんだよ!?
すっげー心配したんだぞ!?
黙っていなくなりやがって、
おい、言っとくけどな、俺、すっげー怒ってるぞ!?
お前のことひっぱたきたいくらい怒ってるぞ!?』






うっわー……。。。





ものっ凄っい怒鳴り声に、私は携帯電話を腕いっぱい耳から遠ざけなければならなかった。





「ごめんなさい……」

『なんだよこの携帯番号、誰のだよ?
 お前のはどうしたんだよ?』

「ごめんなさい、怒らないで」

『そんなしおらしくしたって駄目だっつうの!!
 ひっぱたいてやるから今すぐここに出てきやがれ―――!!
 ケツ出せや、真っ赤に腫れ上がるまでひっぱたいてやる!!』

「ほんとにごめんなさい……、、」

『お前は俺にどんだけ心配かけたか、理解っているのか―――!?』



思えば、眠り続けた3日間―――……、起きたときにそこまでの不快感はなかった。
それはきっと私が寝ている間、ずっと彼が世話をしていてくれたのだ。
体を拭き、寝返りを打たせ、一向に目覚めない私を心配しながら―――……



世界から忘れられ、行く当てのない私をずっと置いてくれた―――……



それに彼もまた、この横暴な世界の変化に影響を受けた一人なのだ。

突然、自分以外の誰もがおかしくなってしまって―――、
その上また、いきなりその私が消えたら―――、、、



私だったら頭がおかしくなっているかも知れない。





それよりも、なによりも、彼は唯一、この世界でただ一人―――


私をせつらだと気付いてくれた人なのだ―――……


本当にかけがえの無い人なのだ―――……










「ほんとにごめんなさい……、、ううっ、、、」

『………………』

「ごめんなさい、薫くん、、、薫くん、、、
 ほんとにごめんなさい……、、」

『薫、愛してるって言ったら許してやってもいいが……?』

「それは……、、、」

『薫、好きだよ、ならほんの少しだけ機嫌が良くなるかも知れないが?』

「薫くん、好き、だよ……」

『で、今どこにいるのかなぁ―――、愛しのせつらちゃんは〜?』





うわわゎゎゎゎゎぁ―――……すっごい機嫌よくなた……。





「ええっと、輪光からずっと南の、磯﨑って海岸沿いの街。
 そこで羽織の―――……、あー、あー、あー、!!」

『羽織って神楽のこと?』

「ごめんなさい、ごめんなさい、それは言っちゃいけなかったんだ」

『俺とお前の間で隠し事は無しだぜ?
 俺は素直なせつらが好きだよ。』

「…………。
 あのね、薫くん、ちょっといろいろと協力して欲しいんだけど」

『うう、人の好意を利用するなんて、せつらはいつからそんな小悪魔に……』

「ううっ、ごめん、でも薫くんしか、頼れる人、いなくて……」

『薫くん、愛してるって言ってごらん』

「薫くん、愛してぬ」

『ああそう。』

「ごめんってば〜、薫くんのこと大切だし、大好きだけど―――、
 でもそんな風には言えないよ〜!」

『分かってるよ、で、俺はどうすればいいんだ?
 せつらの為なら例え火の中、水の中、膣の中―――』

「えっと、これは羽織には言わないで欲しいんだけど、今羽織のお姉さんと一緒にいるの。
それで、できれば、輪光の状況というか、飛鳥とあの女の状況を、調べて、時々教えて欲しいんだけど―――……」

『それならもう調べたよ』

「えっ―――!?」

『彼はもう大学には行ってないみたいだ。
 それから最近はあの女も学校に来てないな』

「どういうこと!?」

『俺もアンテナを伸ばしてできる限り情報を集めようとしてる。 
 ―――って言ってそんな格好いいこと言えないか。
 断片的な噂話の集合体に過ぎないからな』

「うん、うん、それで?」

『これもまだ噂レベルの話なんだが彼は、空見飛鳥は―――悪鬼再編しようとしてるらしい』

「なんで、悪鬼を―――!?
 まさかお兄ちゃんが―――戻ってきたの?」

『そういう話は聞いてないな。
あの事件・・・・から一年経つしなぁ―――……、
最近輪光絡みで摘発される業者とか政治家なんかもいるし、マジ嫌なニュースが多いぜ。
折角せつらが綺麗にしてくれたのにな……』

「別に私が綺麗にしたわけじゃ……。。。」

『そうそう、神楽羽織とはいえば、この夏、新しくできた神羅雪しらゆきってレディースの幹部っていう噂があるぜ? もし悪鬼が組織されれば抗争が始まるのは時間の問題かもな―――』

「羽織が……、暴走族に……、、、
 あの、それで飛鳥は―――、飛鳥は何をしようとしてるの?」

『さぁ……、まだ表だった動きはなにもないからなぁ―――……。
 でも悪鬼の再編は難しいんじゃないかな?
 すでに警察が手入れが入るって噂もあるし―――……』

「え?手入れって……、まだ、悪鬼ができたわけでも、なにかをしたわけじゃないんでしょ?」

『どうなんだろう。
 まあ―――、悪鬼はそれだけ目の仇にされてるってことなんじゃないか?
 汚職やらなんやらで警察も忙しいみたいだけど、
 またこの場所を以前のような状態に戻すわけにはいかないんだろ』

「…………、、、」

『とにかく―――、せつらには可哀想な話だけど、今は空見飛鳥のろくな噂は聞かないよ。
一番酷いのだと、羅刹の再来だとか―――……、言われてるからな……』

「羅刹の再来―――……、、
 そっか……、ありがとう薫くん。
 これからも時々連絡するから、また状況を教えてくれる?」

『時々―――? 毎日電話しろよ。
 それから情報交換として、俺にはせつらの股の状況を教えてくれ』

「それは―――……、この携帯私のじゃないし……、
 あ、私のもってた携帯はもうあの女に解約されちゃったみたいで」

『で、それは誰の携帯なの?羽織のお姉さんの?』

「うん。」

『なあ、逢いに行ってもいい?』

「だめだめっ、もし私が他の男の子と会ってるのばれたら殺されちゃう」

『なんだよそれ』

「ごめん、もう切るね、また電話するから!」

『おい、お礼のチューくらいしていけ』

「ごめんねっ、ありがとっ、ちゅっ」





私はおそるおそるそっと後ろを振り向いた。





そこに歌織さんが立っているような気がして―――……、










はぁ――――――――――――、いない……。










私は心底、命拾いをした気分で――――――、深い深い安堵の息を吐いた。






























「あ、あの、携帯ありがとうございました……」

「あ、あげるよ、それは〜。
 もともとせつらちゃんの為に買ったんだし〜。
 但し! 長電話は絶対に禁止だからね!!
 分かってる?
 電話料金は全部、あのお賽銭箱クンが払わなきゃいけないんだからね!?」

「あ、はい……」

「で―――、どうなの?
 弟クンの様子はなにか分かった?」



「えっと大学にはもう行ってないらしくて、悪鬼を再編成するつもり、かも……、、、しれないって……」



「つまり、とっても悪い方向にいってるわけね」

「そう、ですね―――……。
 はぁ、サラさん、私に約束してくれたのにな―――……」

「誰?」

「あ、あの私から名前を奪った女の―――……、、
 サラって名乗ったんです。
 せつらの名を貰う代わりに私の名をあげるって言ってたから多分それが彼女の―――……


うぐぅぅ、ギブ!ギブ!ギブッ!



 ―――はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁはぁ……」


「な―――ん―――で―――この子はそういう大事なこと黙ってるかなぁ?
 他に言ってないことないでしょうね〜?」


「今、首を絞められた所為で全部忘れちゃいました……」


「ほ―――お―――?」


「嘘ですっ、嘘ですぅ〜><。
 でも、サラって名前がそんなに大事なことなんですか……?」


「ええ、とても、ね」


「あ、あとそれから、羽織の近況も教えて貰いましたけど、聞きますか?」


「…………。
 ううん、いいわ。
 私にはもう……、あの子のことを心配する権利すらないもの―――……」



「………………。
私―――、兄のことなんて、何一つ覚えて無いし、知らないし、心配もしてないけど―――……、それでもやっぱり、幸せでいて欲しいなって思います…。
酷いこといっぱいした人だって聞いたけど、それでも……、私の兄なんだし……、、。
私は心配なんかしてないつもりだけど、やっぱり心配してるんだと思います……」



「な―ま―い―き―い―う―な―――――――!!」



「うううっ―――、ギブギブギブ!!!」










「はぁはぁ、はぁ、歌織さん今本気で落としにきましたよね?」

「それで、どうなの?」

「え?」

「あの子よ―――、どうしてるの……」

「あ、、はいっ。
 あの、実は、その、あんまりいい話じゃないんですけど……、
 神羅雪ってレディースの幹部になったとか…………」



「へぇ……」


「え? あれっ、歌織さん……?
 なんでそんな嬉しそうなんですか?
 羽織のこと心配じゃないんですか?
 歌織さん……?」

「うーん、なんかくすぐったいなぁ、あーくすぐったい。こそばいこそばい」

「こそばい……?」

「うん、とっても。こんな風に〜〜〜!」

「うわっ、あははっ、あは、やめて、あんっ、歌織さんっ、あは、やめてくださいっ!」





はぁ―――、はぁ―――、はぁ―――、










「せつら」


「は―――、はい。」


「そんな話を聞いた後じゃ、今すぐ弟クンのところへ行きたいだろうけど―――、駄目よ」


「…………」


「その代わり、私が強力な助っ人を呼んであげる」


「助っ人?」


「そう、だから今は修行に集中しなさい。
 貴女は自分の力で、彼を取り戻さなくてはならないのだから―――」





「はい」



















































第61話:花嫁修業
終わり

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  第62話:無力
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