彼は大学生で、私は高校二年生―――。

携帯電話という便利な機器でいつでも連絡がとれるようになったとはいえ、私たちが一緒にいられる時間はそう多くはなかった。
だから私は彼の行動を、その心の変化を、常に傍で見守っていられるわけではなかった。





私が羅城せつらになってから数日後―――彼は大学の格闘サークルを訪ねていた―――。
それから手当たり次第に道場破りを始めた。
そして彼は常に、武闘家として鍛錬を積んだ彼らを圧倒した。





私が彼の行動を追えたのは、ほんの僅か―――





そして彼との連絡が、途絶えた―――……





携帯も通じず、メールの返事もこなかった。




















この世界で私は無力だった―――……





神通力を使えば大抵のことは何とかできたはずだった。
しかし今の私は人間と変わらない。
せつらの名を奪い、塵芥で作った器に全ての霊門を閉ざした今の私は、まるきり人間だった。
いや、むしろそれでいい。
私は人間として生きるためにここに降りてきたのだ。

私は、人として―――、もう一度彼と生きるために――――――





しかし現実が私を混乱させる。

何よりも不可解なのは、彼の魂を受け継いだ空見飛鳥が、なぜ今もまだ鬼の力を所有しているのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・ということ。
羅城せつらによって、彼の魂は間違い無く鬼の呪縛から解放されたはず・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・で、だからこそ、あれは私を地に墜とした・・・・・・・・・・・というのに―――、





分からない





この私にも





一体、今、何が起きているのか、が―――……










天界に眠れる魂を起こせばどうとでもなるが、それは私が人で無くなることを意味しているし、それにもしも今、私がここで力を使えば、私の身代わりとなって眠っているあれ・・の身が危ない。
もしあの御方の命に背き、私を逃がしたことを知られればあれは一瞬で消されてしまうだろう。
あれがどうなろうと知ったことではないが―――……。

知ったことではない―――……、



けれど―――……、、



私は、あれが命がけで与えてくれたこの機会を―――、決して無駄にしたくない。





積年の想いを成就させる、この機会を―――…………










嗚呼、歯痒い――――――、
どうして人間はこうも無力なのだ。





やはり人間ごとき――――――……




















どうして私は―――……










いつも無力なのだ……、、、






























七日もの時が過ぎ―――やっと逢えた彼はもう、以前の彼ではなかった。






























「せつら、こいよ」



ホテルへ行き、求められた。

彼の雰囲気はまるで鋭い刃物の様で―――、
その肌からは血に飢えた獣欲がにじみ出ていて、
彼自身抑えきれない衝動に突き動かされているように見えた。


私が拒むと乱暴に犯された。



「飛鳥、しっかりして!! 力に流されたら駄目だよ―――!?」



私が彼の頬をはたくと、思いきり殴り返された。
ショックだった。
空見飛鳥―――彼は女に手を挙げるような―――そんな男だったのだろうか。



「飛鳥―――…………」



私は必死に彼の魂に呼びかける。





(だめ、だめ、だめよ―――、

 折角、あの子が全ての呪いを解いてくれたのに、

 やっと貴方は人間に戻れたのに、

 早く思いだして、

 自分を見失わないで

 タツ―――タツ―――)










「はぁっ、はぁっ、はぁっ―――…………」

「ううっ―――……」



彼が私の中に流れ込んでくる。
もう五度目の射精。
彼は一度も萎えず、私を攻め続けた。



「はぁっ―――、はぁっ―――、はぁっ―――、せつら、愛してるよ」

「わ、私も……、、」



やがて疲れ、終わる交わり。
囁かれる愛の言葉。

私の感じた一体感を、彼も感じているはず。

だから―――……



しかし、交わりの余韻に浸る暇は無かった。
彼に奉仕を求められた。

交わりの後始末―――、自らの体液で汚れた彼のものを、口で綺麗に掃除させられた。






























ようやく落ち着いて―――、私たちはベッドの上で寄り添った。
私はその胸に頬を寄せ、その肌を優しく撫でる。

空見飛鳥―――……タツの魂を抱く男―――

羅城せつらにあれほどの言霊を放たせた男―――





本当に、一体、どうやって―――……、、





世界は悲しみで溢れていて、
そこには人の力ではどうにもならぬ凄惨な出来事が、星の数ほど犇めいていて、
それに比べれば羅城せつらが経験した程度は、ありふれた日常にすぎなくて、

それこそ―――



私だって――――――……、、、










私には理解らない―――、けれど、現実に愛は成った。










「飛鳥―――、あなたはこれからどうするつもりなの……?」



それは今の私の持つ、全身全霊の問いかけ。
決して問わずにはいられない、
そしてその答えに、希望を託さざるを得ないそんな―――



羅城せつらと、空見飛鳥との関係は、こんなものではなかったはずなのに。

二人は、熱き想いで結ばれていたはずなのに―――、

なぜ、こんな―――……、





「せつら、お前は俺の傍にいろ。
 ただそれだけでいい―――」




彼はまるで宣言するように、そしてどこか言い捨てるように言った。



彼の逞しい腕が私を抱く。



私は―――……、私は―――……、、










「飛鳥、もう二度と暴力は振るわないって約束して―――」

「…………」

「暴力を振るうのは、弱い証、だよ―――……」

「…………」

「飛鳥、」


私の言葉に、彼は突然起き上がり、私の顔を跨いだ。


「うるせぇなぁ……、、お前は黙ってこれでも咥えていろ―――
 オラッ、お前はこういうのが好きなんだろうが、え?せつら?」

「んぐっ―――……、、、」


私が拒否しても、何度もそれを口に押しつけてくる。
顎を掴まれ、彼の強靱な力に抗うことができない。

そして思うがままに口を犯される―――……、、、





じゅぽっ―――、じゅぽっ―――、じゅぽっ―――、





「んぐっ―――……、、んんっ」

「なぁ、せつら、明日一緒に面白い場所へ行かないか?」

「んんっ……、、、んんっ……、、、んんっ……、、、」

「おまえの大好きなちんぽがいっぱいあるぜ?」

「んんっ―――!!
 ぶはっ―――、私、行かない!ねぇ、飛鳥、聞いて――――――!」


「るせぇッ!!
 俺が行くって言ったら行くんだよ―――
 お前は黙ってついてくんだよ、分かったか、豚が――――――」


「飛鳥………………、、、」


「いいか、二度と口答えすんな――――――、
 なんか―――、、

 なんか、わからねーけど、すげぇイライラすんだよ!!


 いいか、もう一度だけ言うぞ?
 せつら、お前は黙って俺についてくればいいんだ。

 俺の傍にいればいいんだ、分かったか―――――――――」






























彼は頻りにその顔を歪ませた。
それは今日、会った時には既にあったもので、交わっている最中も起きていた。

それは見るものに不快感を与えずにはいられない、思わず顔を背けたくなるような悪癖。

彼の端正な顔が酷く醜く歪む。

でもそれは、彼が意識的にやっているのではなく、まるで何かと戦っているような、その裡で何かが鬩ぎ合っているような、そんな――――――、、、











「あー、アズマと悠理も連れて行くか。
 きっと楽しいぜ、乱交パーティー」





私は彼のモノを吐き出して、彼を押しやり、立ち上がり、その頬を掴んで叫んだ。





「飛鳥、私の目を見なさい!!」





「あ?」





「いいから、見て!」





すぐ間近で、彼の目と、私の目が合う――――――。

私は見つめる、
彼の澄んだ瞳を―――。


目は心の扉。


今の私に特別な力は無い―――



けれど―――、彼の心に直接問いかければ、きっと――――――届く



届く、はず――――――――――――










「ん?


 ん〜〜〜〜?


 ああ……、


 お前って、やっぱりお前って綺麗な顔立ちしてるなぁ…………。


 よし次は顔にぶっかけてやるよ、ほら、咥えろ豚」





「きゃっ――――――」




















神通力はなくとも、それでも人間よりは上のはずだった。
なぜなら私は万物の出す尾――霊気――の理を理解しているからだ。
たとえ霊門を開かずともそんなものは経験として分かる・・・・・・・・

だから今の私でも、ある程度人心を操作することくらいならできるはずだった。

それは決して彼にするはずの無かった行為で―――……、

なのに、効かない。
彼の心に、届かない。






























あの子にはできたのに―――…………










ずっとずっと、何百年もの間、私が為し得なかったことを―――





あの子はたった一年でやってしまった。





私は未だかつてあんな強力な言霊を、見たことがない。





何の力も持たない人の娘が―――……、





どれほどの想いを籠めれば、どれだけの意志を詰め込めば、





あれほどの霊威を放てるというのだろう―――……。










ヒトの子の強さは知っている。





それは決して侮れないもの。





私は侮ってなどいないつもりだった――――――





けれど私は今、思ってしまっている。





あの子にできて、私ができないはずはないと―――……










タツ―――  タツ―――










ずっとずっと、もうずっと―――、長い眠りについていたから仕方ないかも知れない。










でも、もう目覚める時がきたんだよ――――――、





私たちの魂は繋がっているのよ―――……





早く思い出して、





私を感じて





私を抱き締めて―――、タツ――――――……、、




















「よーしぶっかけてやるぞ!
 はぁ―――、はぁ―――、はぁ―――、」










髪の毛に、目蓋の裏に、頬に熱い粘液が降りそそぐ――――――










彼が腰を揺らし、その粘液を私の顔に引き延ばす―――……






























私は―――……、、、





私は―――……、、、



















































第62話:無力
終わり

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  第63話:神楽歌織
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