私は幼少の頃から剣を握らされた。
剣の道を教えられ、剣の道に生きた。
私の歩く道はそれ以外に無く、そして私はひたすらに剣の道を歩き続けた。
剣の道―――、それは一つの“力”。
しかしその道程で私が識ったのは、人を超えた、強大な力の存在だった。
それは自然そのもの、森羅万象を司る宇宙の意志。
多くの人はそれをこう呼ぶ―――――――――
神 と。
人は決してそれに抗うことはできない。
それは剣の道を究めた私とて同じ事。
たとえ私がいくら鍛えようと、強くなろうと、どんな力を手に入れようとも―――、
決してそれに抗うことはできない。
それが人の限界。
人という、個の限界。
人という、種の限界。
人はそれがどんなに理不尽な事象であろうとも、受容し、受け流し、あるいは飲み込む他はない。
そして、それは、正しい。
それが私の理。
そう思っていた。
鬼伝説―――、それは日本各地に散らばる伝承。
人々に語られる不可思議な物語。
何年も前、あの男に敗けて後、なぜか私はそんな物語に興味を持ち、文献を読みあさるようになった。
しかし私はいわゆる普通の図書館においてあるような、そんな伝承に興味はなく―――、私が求めたのはより真実に近き―――秘文―――。
神楽で鍛えた力を活かし、どんな場所に隠された文書も、忍び込み、目を通した。
そんな衝動も時の流れの内に消え去り―――、
漸く私はこの場所に落ち着けたのだけれど―――。
私の記憶が正しければ、その中に一つ―――、合致する名前がある。
まさしく秘境とでもいえそうな、そんな場所に建てられた御巫の一族に伝わる、羅刹と洛沙羅の鬼伝説。
勿論その符合はただの偶然に過ぎないのかもしれない。
神の名であればともかく、鬼の個体名など伝承の中では一般名詞にすぎず―――……、
でも――――――、
目の前の少女の―――、魂の異形さは、
その理由は
私は、彼の死でさえ、受け入れた。
それを自然の意志として―――、受け入れた。
なのに、
なのに、
女は―――、少女から名を奪った。
神、仏、天使、鬼、悪魔――――――……
私の生きる現代においてそれらの言葉の示す存在が―――、目に見えて語られることはない。
私もそんなものは存在しないと思っていた。
例え存在したとしても、それは万物の中に流れる大きな奔流のようなもので、
つまり、自然と同義だと考えていた。
だからそれがどんなに理不尽な結果を与えようと私は――――――
しかし―――、それももう終わりだ。
私の理は、今ここに終わりを告げる。
私は決して許すまい。
私から彼を奪った存在を。
許されると思っているのか。
少女から名を奪うものよ。
それが神だと言うのなら、私は決して認めぬ―――――――――
神楽は神を護る為に作られた剣。
思い知るがいい。
人に護られなければならぬ脆弱な神など―――――――――、
私が斬り捨てる――――――