その日、彼ら四人は輪光に足を踏み入れていた。



「あ”あ”あ”あ”―――――――――、
 くせぇ、くぜぇ場所だぜぇ」


ガツンガツン――――――――――――


明らかに通常とは異なる―――巨大な体格をもったその男が拳を打ち合わせると、通行人達は誰もが驚き、逃げるように彼から距離から取った。


巨漢の名は座主坊ざしゅぼう呂久斗ろくと
彼の隣に立つ、連れとみられる三人の男女は―――その男の巨体の所為でやけに小さく見える。



「そういうなや……。
 しかし、さっみぃ―――」



もう一人の男はおかしな関西弁を操る少年、小童谷ひじや恭兵きょうへい
それからサングラスでその目元を隠しているが、妖艶な唇の目立つ女―――さがん立夏りっか
最後の一人は少女らしい体格を多分に残す―――比良垣ひらがきかなみ。



その四人の持つ雰囲気は、明らかに普通のそれではなかった。
とても同じ空気を吸って育ったとは思えない―――、そう、言ってみれば、彼らは全く異なる環境で―――、別世界で生きてきた―――、と言われば納得してしまいそうな、そんな異様な雰囲気を持っていた。





彼らは、知るものにはこう呼ばれる―――鬼喰らい―――と。





「ここがお宝のある場所―――、か―――……」



恭兵か嗤いながら呟いた。
お宝―――という発言の割に、彼はどこか陰鬱な、恨みがましさすら感じさせる面持ちを見せている。



彼らはある目的があってこの輪光へやってきた。

いや、目的―――というより、使命、
やってきた―――というより、遣わされた、と言う方が正しい。

そう、彼らはこの場所へ来たくてやって来たわけではなかった。

彼らは数日前、突然彼らの村を襲撃した、一人の女・・・・によってここへ遣わされた、刺客―――なのだった。










突然、村を訪れたその女は彼らに命令を下した。
輪光にいる空見飛鳥という青年から、鬼の魂―――羅刹―――を回収しろ、但し彼には傷一つつけてはならない―――、と。


無論、彼らにそのような一方的な要求を受け入れる理由はなく、両者は戦闘状態に入った。


敵は女一人。
対するは鬼喰らい一族。
場所は鬼喰らいのホームグラウンド。

分は彼らにあるはずだった。

なにしろその中にいた鬼喰らいの一人・座主坊呂久斗は一族最強の依代で―――、

しかも彼は夜叉という鬼の魂を喰らったばかりで、まだ完全ではないとはいえ、その力を使役することができたからだ。





しかし女は―――、





その彼をいとも容易くねじ伏せ、長老の首を刎ねてみせた。





そこには躊躇いさえもなく―――。





そして女は冷ややかに告げた。





羅刹の魂を持ってこなければ皆殺しにする―――、と。










鬼喰らい一の術士であった小童谷恭兵は、その若さ故の反抗心で言い返した。



「そない強いんやったら自分でやればええやん―――……」



それに対し、女はこう答えた。



「私はあの地には入れない―――……」




















はっきり言って、その村は滅びの危機に瀕していた。
住人は年々減り続け、今は老人、赤子を合わせ100人にも満たない。

近親婚を繰り返し、霊力を補給するための<巫女樽>を作り、小さい頃から鬼の力を得る為だけに生きる―――そんな現代から切り離されたような村が、生き残るのは至難であった。


それでも彼らは信じていた。


いつかこの世界を手にするのは自分たちだ、と。
最強の物の怪―――鬼―――の力を操り、全てを支配する、選ばれた血族だ、と。


更に、そんな彼らを踊躍歓喜ゆやくかんぎさせる事件があった。
それは一族の悲願である最強の依代・座主坊呂久斗、術士・小童谷恭兵は見事、夜叉という鬼の魂を喰らうことに成功したのだ。





しかし訪れた現実は虚しく―――、





壮大な野望を描いていた彼らは、村を訪れたたった一人の女によって、自分たちが井の中の蛙であったことを思い知らされたのだった。










しかし、突然の来訪者が彼らにもたらしたものはそれだけではなかった。


それは、座主坊呂久斗の覚醒――――――


本来、彼は鬼の依代であり、必要なとき、術者のサポートのもと鬼の力を行使する器にすぎなかった。しかし、彼女が一歩、足を踏み出す度に受ける、まるでその場全てを支配されるような圧迫感に―――、

絶対的強者を目の前にし、その鬼気を受け続けた座主坊呂久斗は――――――、





進化した。





その強者を倒すため、彼は己の内にいた鬼を完全に喰らい込んだ。





それは彼は鬼を降ろすための依代から―――本物の鬼へと変貌を遂げた瞬間だった。










一族念願の、鬼の完全支配―――


それは期せずして訪れた一人の女、


族長の仇―――、


人として生まれながら、


鬼を凌ぐ力を手にした女―――、


神楽歌織の手によってなされたのだった。






























それはほんの数日前に起きた苦々しい記憶―――……。

恐らく自分たちは当て馬にさせられたのだ、ということは分かっていた。
あるいはこの土地に入れない彼女へと変わって羅刹の魂を持ち出すための、単なる運び屋として―――。

なぜ、そんなことをさせるのかは明々白々。


彼女は戦いたいのだ―――羅刹と。










いずれにしても。彼らが生き残る道はただ一つ。


それは羅刹の魂を喰らい・・・・・・・・完全に支配すること・・・・・・・・・


そして今度こそあの女を殺す。
それだけが彼らが生き残ることのできる唯一の未来。


しかし彼らは決して悲嘆しているわけではなかった。
なぜならそれは同時に光でもあった。
彼らに見えていたのは絶望ではなく、希望の光。





羅刹を喰らい、そして今度こそあの女を殺す、そうすればもう、邪魔者はいない。










その後には一族の輝かしい未来が待っている――――――



















































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