時は10月半ば―――豪華ホテルのスイートルーム――――――
直接床に座らされているとはいえ、そこには柔らかな絨毯が敷かれていて、肌触りは最高に心地良い。それだけなら良かったのだが―――、気分は最悪だった。
私は男の膝の間に蹲り、その股間に顔を埋めていた。
その勃ってもいないものを口に含み、ただ口での愛撫を続けている。
ぶよぶよとした亀頭を舌の上で転がし続けている。
もうこの男は3度も出したのだ。
それでも私はそれを口に含み続けなければならなかった。
私が奉仕させられているのは、飛鳥が呼び戻した元悪鬼の幹部―――灰刃鷹男。
がっちりとしたプロレスラーのような体格に、気色悪い緑の頭髪をしている。
飛鳥はすぐ隣のソファーで、どこかで拾ってきた女の肩を抱いて煙草を吹かしている。
豪華な家具、高い天井、明るい照明、そこはとてもいい雰囲気で、
けれどその空気は醜く淀んでいて―――……
「はっはっは―――!!
また俺たち悪鬼の天下がくるとは夢にも思わなかったぜぇ!!」
灰刃が酒のグラスを掲げ、その大きな体を揺らせて笑った。
「俺はいつかやってくれると思ってたっすよ―――。
で、これからどうするんすか空見さん」
そう言ったのはその頭髪を真っ赤に染めた桧山研悟。
彼もまた灰刃と同じように元悪鬼の幹部の一人であり、空見飛鳥が悪鬼再編のために呼び寄せたメンバーの一人。
飛鳥とは同級生だがその態度は完全に媚びへつらっている。
「別にどうもしねーよ。
とりあえず金、女、酒がありゃいい。
その為にお前らを呼んだんだ。
俺の手足になって働けよ」
「勿論っすよ―――、そうっすね―――……、じゃあまずは悪鬼再編の祝いに、神羅雪を潰すってのはどうっすか? 輪光をまた俺らのシマにしましょうよ―――!!
あとは、東ででかいツラしてる桜劉会も目障りっすねぇ―――……」
「おっ、久々の出入りか―――!?
血が騒ぐぜぇぇ―――!!」
飛鳥は煙草を吹かしながら物憂げに天井を見つめていた。
悪鬼の再建を宣言した。
その悪鬼のこれから行動指針。
桧山の提案は短絡的だがとても自然な発想だ。
まずは縄張りの確保、輪光の支配。
その為に神羅雪と桜劉会を潰すのは必然――――――。
空見飛鳥はここ最近―――、その衝動のままに行動していた。
因縁を付けてきた相手を半殺しにし、あるいは因縁をつけて恐喝し―――、東の裏の界隈を歩き、暴行と恐喝を繰り返した。
それはまるで手当たり次第にぶつかり暴れ狂う独楽のようであった。
しかしその動きは衝動に依るとはいえ、余りに素早く――――――、
彼の行動はすぐに警察に目に止まったが、明らかな恐喝、暴行であるにも拘わらず―――被害者は決してそれを訴えようとはせず、また何一つ尻尾を残さない彼の行動に警察は手を焼いた。
出る杭は打たれる。
まさしく羅刹の再来を予感させた彼は、完全に警察の監察の対象となっていた。
しかも彼はかつての羅刹の時のような輪光内におけるひっそりとした活動ではない。
その獰猛な牙を東の界隈に、経済へと食い込ませている。
今の彼はそれこそ朝から晩まで、四六時中、警察に見張られているのである。
その所為で彼は自由に身動きがとれずにいる―――のだが、既に相当の金を集めた彼は、日々こうしてどこかのホテルに潜伏している。
彼はホテルに潜伏しながら、なんとなく悪鬼の再編を宣言し、昔の四天王であった桧山と灰刃を呼び戻しはしたものの―――、その組織の人材はまだ殆どいなかった。
空見飛鳥―――、今、彼の中に明確なビジョンは無い。
ただ衝動に突き動かされるだけの獣。
「ふぅ――――――…………」
その心は彼の吐き出す煙のようにたゆたう。
「桜劉会―――か……、、使えるな―――……」
程なくして彼はそう言った。
「へ―――?」
「一から何かを作り上げるってのはめんどくせーし、なかなか手間がかかるもんなんだよ。
だったら既に作ってあるもの―――桜劉会を乗っ取ればいい。
あいつら集金ルートをそのまま頂く―――いや、乗っ取る必要もねぇな。
裏から抑え付け、金だけ巻き上げる。
金を稼ぐのはあつらの仕事だ。
俺たちはその売り上げだけを頂く。
ある程度の金が入ればサツも買収できるだろうし」
「でも、桜劉会を乗っ取るなんてことが―――、できるんすか―――……」
「ああ、全く問題ない。今の俺ならやれる」
「へっへっへっ、流石空見、最高だぜ――――――」
「じゃあ、俺らは何をすればいいっすか?」
「こうして身を潜めるのにも飽きたしな―――、明日、俺が行こう。
桧山、お前は車を出してくれればいい。
奴らには俺1人で話をつける」
「了解っす」
「それから忘れるなよ。
お前らの一番の仕事はせつらの護衛だ。
もともとスキモノの女だ。犯る分には構わねーが、絶対に傷つけんじゃねーぞ。
羅刹さんからの大切な預かりものだからな。
それさえできてりゃ、お前らには好きなだけ遊ばせてやるからよ」
「へへっ、分かってるって。
しかしマジ羅刹さん、どこいっちまったんだろうな。
もし今、羅刹さんが戻ってきて、空見と組んだら、俺ら日本支配できるよなwww」
「言えてるな!」
「それはどうかな―――……」
「へ―――?」
「俺の天下なんて3日持つか分からんぞ。
あの羅刹さんでさえ消えたんだ。
お前らも十分に用心しろ」
「そ、そうっすね……」
桧山が上体をソファーに預けた。
そしてその隣にいた女を抱き寄せ、その胸に手を伸ばす。
白井悠理―――同じ四天王のメンバーであったはずの東江黎の彼女―――。
その股に手を伸ばし、下着をずらして秘所に指を挿れる。
「うくっ―――」
少女はびくり、と体を震わせ、その瞳を潤ませ頬を朱に染めた。
陰部を掻き回す指から逃れるように、それでいて押しつけるように腰を揺らす。
感度良好。
薬を吸わせたあそこは既に熱く滾っていた。
「こいよ」
待ち焦がれていた命令に、悠理が桧山の前に回り込んだ。
そのベルトを外し、モノを取り出し、その上に腰を下ろす。
その中に、一気に根本までを咥え込む。
「あふぅんっ――――――」
「うおっ―――……」
熱い棒芯を咥え込み、蕩ける声をあげた。
同時に桧山も。
白井悠理―――。
一見して地味な女だと思ったが、眼鏡を外し、髪を下ろし、化粧をさせると、どうしてなかなか化ける―――。
いや、むしろかなりの上物といえた。
(へへっ―――、アズマも馬鹿な野郎だぜ……。
長い物には巻かれろってな―――)
桧山は―――本来なら、きっとこの場にいたであろうはずの男の―――その女の肉穴を楽しみながら嗤った。
かつての悪鬼―――その最後の四天王である東江黎は、空見の行動に頑なに反対したため病院送りにされたのだった。
「あの、私、トイレ……」
私は灰刃のモノをから口を離してそう呟いた。
顎は痛いし、これ以上舌を動かすのも億劫だった。
「ああ、またかよ?
せつらちゃんちょっと近すぎるんじゃねぇのぉ!?」
灰刃の不快な声に、私は顔を顰め立ち上がる。
「行ってくる…………」
「おい待てよ。飲んでやるから俺の口の中に出せよ」
去ろうとした私の腕を、灰刃が掴む。
加減というものをしらないのか、掴まれた腕が痛い。
「そ、そんなのっ」
灰刃はソファーから体を大きくスライドさせ、その上に仰向けに寝転んで口を大きく開けた。
それを跨いで出せ、と言っているのだ。
が、そんなことできるわけがない。
それに本当はただこの場から離れたかっただけで、尿意など、無い。
「おっきい方だから――――――」
私がそういうと灰刃がニタァと笑った。
「かまわねぇ、遠慮なくやってくれ」
かまわねぇ!? こっちこそ構ってなどいられない。
無視して去ろうとした私に、何かが投げつけられた。
テーブルの上にあったスナックの袋を飛鳥が投げつけたのだ。
「待てよ―――。出せよ、せつら。
俺も見てみたい。
灰刃がお前のうんこを食うところ」
「そんなっ―――!?」
「おい、留美、換気だ。窓開けてこい」
「はぁ〜〜いv」
飛鳥に抱かれていた女が、むかつくほど甘い声をあげ、窓際へと歩いて行く。
くっ――――――、、
なんで、
なんで、
私は思わず拳を握りしめた。
羅城せつらと空見飛鳥の魂は強く結ばれていたはずではないのか――――――!!
彼らは深く愛し合っていたはずではないのか!!!
私は一体何のために降りてきたのだ―――……
私はただ一度、
ただ一度だけ、
彼と
普通の、
本当に普通の人間として、生きてみたかっただけなのに―――…………
ただ日々を笑い、楽しみ、悲しみ、
過ごしていくだけの、
そんなありふれた普通の人生を、生きてみたかっただけなのに――――――……
「そんなことできるわけないでしょ、飛鳥の馬鹿―――――――――!!!」
私はスナックの袋を彼へと投げ返し、それから何時間も、独りトイレに篭もった。
第66話:三天王
終わり