予兆はあった。

それは私が、桜劉会に殴り込みをかけようとした時に感じた悪寒―――

得体の知れない奇妙なモノに見られているような―――そんな嫌な気配を感じた。



あれが彼の言っているモノならば―――確かにその影は、危険―――。










ワイトイルドホテル―――
新しく輪光駅前に建設された豪華ホテルジョナスを除けば、この辺で一番高い建築物だ。

その40階―――最上階スイートルームフロアをまるまる借り切ったその場所に空見達は滞在していた。
そこにいるのは空見飛鳥、羅城せつら、七種いつきの3人のみ。
桜劉会や悪鬼のものは一人もいない。










私は窓から外の景色を眺めていた。



地上を蠢く、電車、車、人、人―――……、



こうして遙か頭上から下を眺めていると―――、まるで自分が神にでもなった気分になる。





『あっ―――、あんっ、ああっ、はぁん―――……』





地上の風景―――、それはまるでミニチュアの模型のようで―――……、

人間が有象無象のように思えてしまって―――、、

そこにはそれぞれの想いを抱えた人間が必死に生きている―――、と分かってはいるものの、

そこには何の価値も無いように思えてしまって―――……

思わず地上、ではなく下界、という言葉がでてしまいそうになる。





もし天から地上を見下ろすものがいたとしたら―――……、
彼らは人間の存在に価値など見出してはいないかもしれない。
こんな風景を見ていては、見出すことはできないかも知れない。

自然に溢れていた地上をこんなにしてしまった―――、こんなにも汚らしい街を形成し、生息する生物を、排除しようと考えても不思議ではない―――のかも―――……、、





『ああっ、飛鳥っ、飛鳥ぁっ、イクっ、いくっ―――、、、イッちゃう!!!』










既にホテルに滞在して3日目が過ぎた―――。
依然敵の襲来はなく、ホテルに閉じこもっていては他にすることもないのか、空見飛鳥と羅城せつらは四六時中セックスばかりしている。


あたしは部屋を出て廊下にでているのだが―――……



扉に体を押しつけでもしているのか、廊下にまで羅城せつらの喘ぎ声が聞こえてくる。



着慣れないスーツでいることも落ち着かない要因の一つだった。
今から特服に着替えてもいいのだが、やつらはいつなんどきホテルのレストランにいくと言い出すかも分からず、そうするとまた着替えるのが面倒だった。





程なくして部屋の扉が開き、空見が出てきた。
身に着けているのはバスローブ一枚だけである。





その顔にいけすかない笑顔を浮かべ、余裕な態度で近づいてきた。





「どうだい、いつきさん。気晴らしに一戦交えてみないか―――?
 君も彼女の淫気にあてられて結構その気になってるんじゃないか?」


「………………」



当然シカトである。
もしかしたらこいつはわざと羅城せつらの喘ぎ声を聞こえるようにしたのかもしれない。
が、男と交わりたいなどという情欲は私には微塵も無い。



「こっちは君の所為で性欲が解消しきれないんだ。
 少しは協力して貰いたいな」



「はぁ―――……」



私は小さな溜息を漏らした。
確かに、初日から二人のデリヘル嬢を呼んだ彼に―――、

1週間、得体の知れない部外者をいれるなと言ったのは私だが―――……




「次にそれをあたしの前に晒したら、容赦なく斬り落とす―――」


「分かった、分かったよ―――。
 でも万が一次に事故で見せたとしても斬り落とすのだけは勘弁してくれよ。
 女の子達が悲しむ」



「死ね―――クズが―――」










私は木刀の振り、セクハラ男を追い払う。

あの男の不可解な笑み―――……、、

できる限り好意的に解釈してやれば、一日中神経を張り詰めさせている私を気遣い気を紛らわそうとしている――――――つもりなのかも知れないが、大きなお世話だ。





首をすくめ立ち去ろうとした彼に私は呼びかけた。



「おい―――」


「どうした―――? ヤる気なったか?」


「黙れカス。
 それよりもう4日目だぞ―――?
 確かに部外者を入れるなと言ったのはあたしだが―――、、、
 ここは敵を誘い込むにはいい場所とは言えないんじゃないか?
 それに片を付けるのはお前の役目だろう?空見飛鳥。
 あの子は私が抑えて置くから、さっさと終わらせて欲しいんだが?」


「今は彼らの出方を見ているのさ―――。
 君は方術といものを知ってるか?」


「方術―――……?
 仙人なんかが使う不思議な術のことだろ?」


「御名答。
 そして例えるなら、そう、俺たちがスポーツ選手なら奴らは科学者――――――。
 全く違うフィールドにいる彼らが一体何をしてくるのか俺には見当もつかなくてね」


「相手が誰か、分かっているのか?」


「いや、さっぱり」


「…………」


「だが来るだろう―――、もしあと二日待ってもこないようなら、
 その時は俺から仕掛けよう―――」


「もうデリヘルでもなんでもいいから呼べよ。
 少しは隙を見せた方がさっさと片がつくだろう」


「ふふっ」


「何が可笑しい―――?」


「いや、もし敵が君みたいな短絡的思考の持ち主だったらさぞやりやすいだろうと思ってね。
 それこそ、敵の思う壷さ。
 それに―――……」


「?」


「俺はできれば君に相手をしてもらいたいな―――、
 満更処女ってわけでもないんだろう?
 男の影も無いようだし、たまにはセッ―――おっと、冗談、冗談だよ―――」


「いい加減にしろ。次は本当に斬り落と――――――」










その時だった―――、その場の空気が変わった。



それはまるで、蜘蛛の子を散らすよな――――――、



不意に、空の太陽が翳ったような、



突然、満潮から引潮へ変わったような――――――…………





それは肌に感じるはっきりと分かる変化だった。


私は急いで窓から外を見下ろすと―――、下界から人が消えていた。
あれだけ走っていた車が、一台も通っていない。

私のすぐ後ろから彼も、外を見下ろしその光景を目にする。



私は慌てて部屋へ戻り―――、羅城せつらの安否を確認する。
飛び込んできた私を、彼女は裸のまま睨みつけてきた。



(この子は、この変化に気付いていないのか―――……?
 影響を、受けていないのか―――……?)






空見飛鳥も部屋へ戻ってきてバスローブを脱ぎ捨て、服を手にする。



「飛鳥、気をつけてね―――」


「せつらも―――感じているのか?この妙な気配」


「うん」


「そうか―――、安心しろ。すぐに片を付ける。
 いつきさん、彼女を頼む」


「ああ」




















敵が、きた。





空見飛鳥は敵を迎え撃つため、一人エレベーターホールへと向かった。



















































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