防衛の本能のままに咄嗟にガードした両腕は砕けた。
壁に叩きつけられた衝撃で内臓を痛めたのか、口の中には血の味が滲んでいる。
小童谷恭兵は朦朧とする意識の中で思い出していた。
彼の脳裏に浮かんでいたのは、一人の女。
突然村を襲い、祖父の首を刎ねた、女―――
彼女は告げた。
空見飛鳥を傷つけず、彼が持つ鬼の魂だけを喰らってこいと。
彼女は踏みにじった。
一族の秘密を。
一族の尊厳を。
一族の誇りを――――――、、
彼女は俺の一番大事な―――、、
彼女は村の一番奥深く―――、
決しては踏み入れてはいけない禁断の領域へと足を踏み入れてしまった。
そして見てしまった。
俺の一番大切なものを。
久遠美祢を。
そして彼女は笑った。
それは蔑んだ笑い。
あの時……、彼女はなんと言った……?
「今、楽にしてあげるから―――」
彼女は刀を振り上げた……?
「やめろ!分かった」
俺はそう言った。
確かに叫んだはずだった。
要求は全て呑む。
だからやめてくれ、と―――。
なのに
なぜ、
この記憶は続く――――――……?
「やめてくれ」そう叫んだはずだった。
彼女の首が――――――――――――――――――
ことり、と地面に転がった。
「 ぐ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
あ
・
・
・ 」
彼は哭いていた―――……。
それは聞く者にまで悲しみを強制するかのような―――
深い絶望に満ちた―――…… 怨嗟の声――――――……
ふざけ……、、、 やがって、、、、
ふざけ、、やがって、
ふざけやがって、
あの女は踏みにじった。
俺を、一族を、俺の大切なものを―――!!!!
四肢を切断され、樽漬けにされ、醜く生きる彼女を―――――――――
ふざけきった偽善で、
くだらない人道で、
尊厳という大義で、
おぞましい偽善者め―――
――――――!!!!!
俺は死なない……、、
あの女を殺すまでは―――――――――
絶対に―――――――――――――――!!!
「喰らえ、呂久斗ォォ―――!!!!!
呂久斗ォ―――!!!」
彼はその口から血を吐きながら、吼えていた。
鬼喰らい―――、それは鬼を喰らう血族。
彼らは同族の命を喰らい、その力を増す――――――――――――
この遠征に一族の命運はかかっていた。
小童谷恭兵―――、それは一族の命運を託された少年。
しかしそれはあまりに直接的な意味で、一族の命運は託されていた。
彼は、彼に託された最後の禁術を発動させた。
その命に従い、鬼喰らいの村に仕掛けられた結界が効力を発動する。
命が消えていく―――――――――
小童谷恭兵の、目立夏の、比良垣かなみの―――
魂がその肉体を離れていく―――
血族の全ての魂を喰らい――――――――――――――――――
座主坊呂久斗はむっくりと、その巨体を起こした。