翌昼―――、彼らはやって来た。



アパートの前に停車した車の音に私は窓から様子を窺う。

正面に止まったのは一台のパトカー。
4人の警官が降りてくる。



(えー……、なんで警察が……)



私は戸惑った。
情報の発信源は私の部屋になっている。
薫は決して看過できないような情報にすると言っていたけれど、もしかして彼は飛鳥の殺害予告でもしたのだろうか―――?

それとも脅迫―――、名誉毀損―――?


うーん、警察に手配されるとか、面倒なんだけど―――……





「あ、なるほど―――!」


状況を理解した私は思わずぽんと手を叩いた。
彼らの纏っている氣が、全てを物語っていた。

彼らは本当の警察官ではない。

車両と制服で警官に扮し、正面から堂々と乗り込んできた刺客。
もし他人に見られたとしても、傍目には彼らが正義となる。





私は堂々と正面から出て3人を気絶させ、最後に残ったリーダーと思われる男の喉元に、鞘に収まったままの奈落を突きつけて言った。



「ねぇ、貴方たちのボスのところ連れて行ってくれる―――?」



喉を圧迫し呼吸を止めてやると、男は必死に頷いて―――、
私は彼らのパトカーに乗り込んだ。





これが飛鳥のところへ繋がっているかは分からない。
しかし、もしこいつの雇い主が彼ではないとしても、その雇い主へ、次へ、そして次へと、辿っていけばいつかは必ず彼に辿り着く。

そう、これは彼へと繋がる一本の糸。

私は決して放さない。





あの女から、彼を取り戻すまでは、絶対に―――――――――。




















が、私の期待は外れ、繋がりはあっという間に途切れた。

男が向かった先は都内であるにもかかわらず―――、そこは民家から離れひっそりと建てられた平屋で、そこが彼らのアジトに間違いはないようなのだが、彼らはただの雇われた組織に過ぎず―――……、幾ら問いただしても、依頼先は分からないということだった。
とりあえず私は連れ込まれた建物の中で彼らを半殺しにした。





私はそれを薫へ報告し―――、スーパーで食材を買い込み、アパートで夕食を摂った。






























深夜1時―――……、
なかなか寝つけず、坐禅を組んで精神を澄ませていたら外に気配を感じた。


私は素早く服を着替え、奈落を手にした。



そして足音を忍ばせ、近づいてきた男をドアごと斬り倒す――――――



「ひっ―――……!!!」



ドアの向こうで銃を構えていた男が、その銃身を斬られ、情けない声をあげた。



ドアの前に一人、角に一人、階段の下に一人―――……、



私は2階から直接飛び降りて、背後から急襲し倒していった。
本当に荒事に訓練されたプロなのか、それともたかが女一人とたかをくくっているのか、殆ど抵抗らしい抵抗はなかった。










真っ黒な車の前で二人の男が立っていた。



「空見様がお会いになるそうです―――……、どうぞこちらへ」



黒ずくめの男達に促され、乗り込んだ車の中で私は―――襲われた。





私はゆっくりと、扉をあけた。
返り血で服が汚れてしまい、不快だった。
勿論、命まで取ってはいない。


狭い空間に女一人ならどうとでもなると思ったのだろうか―――……





私は奈落を鞘から抜いて、一振りで車の屋根を斬り飛ばす――――――





「彼に―――……、空見飛鳥に伝えて。
 羅城※※※―――……、空見刹那が待ってると―――、

 次は本人が来いと―――」






























昼過ぎになって再び、アパートの前に真っ黒の車が止まった。



降りてきたのは年老いた運転手一人だった。



「空見様がお連れしろと―――……」



飛鳥が直接逢いに来てって言ったのに!と不満に思うものの、その言葉が彼に届いているのかも分からず、そしてこの老人が本当に飛鳥の使いなのかも分からず―――……、

しかしこれが彼へと繋がる手がかりである以上、私はついていくしかないのだった。



「目隠しをさせていただきます」



後部座席のガラスは完全に不透明で、既に外を見る事すらできなかったけれど―――、
私は素直に従った。





それに今の私に目隠しなんて―――……、、、





無畏の構え――――――
神楽流剣術の要となるその構えの体得に、私は目隠しをしたまま生活をさせられたこともあった。ただ一つの霊門さえ開いていない私が、本当に神楽の剣を継げたのかは理解らないけれど―――それでも歌織さんの言うところの状態・・にはできているので―――問題はない、多分。










その車は揺れも、エンジン音すらも感じさせず、静かに走り始めた。


輪光から東へ―――……


輪光周辺の地理など殆ど頭に入っていなかったが、方角と距離で大体の位置を推測する。
私の感覚を攪乱させるつもりなのか、ドライバーは何度も余計な回り道を繰り返しているようだった。

一時間以上が過ぎ――――――、車は輪光から車を飛ばして20分程度のところにある私立征関学院付近を走行していた。

その裏―――、

そこには以前、広大な空き地が広がっていて―――、かつてその場所にあった廃倉庫では、学生30人が惨殺されるという大事件が起きていた。
目隠しをされているために見えないが、今は確かその場所には大きな慰霊碑と、輪光再生を願う記念館が建てられているはずだ。





どうやら車はその記念館の敷地へと入ったようだ。





薫は、飛鳥はとっくにここを去って新宿界隈にでも移ってるだろうと言っていたけれど、まさか、こんなところに―――……?





車はその中をぐるぐると回り、やがてどこか車庫へと入った。





そして、車は、地下への降下を始めた――――――……。




















「目隠しをお取りします―――」



車から降りると私は目隠しを外された。



それは地下に設けられた巨大な建造物だった。

空調は行き届いている―――が、どうにも息苦しい。

地下なら心地良いと思ったけれどどうやら違うようだ。
全てが無機質に覆われた場所に、私は目眩を感じる。





黒い服に身を包んだ二人の男達が近づいてきた。


「空見様のもとへ案内します―――が、刀はここで預かります」


「これを取り上げるというのなら、私は貴方たちを斬って先に進むけど?」


「…………」



男達は黙って歩き出した。




















この先に、飛鳥がいるのだろうか――――――……





私は、本当に、彼に逢えるのだろうか……?





あの女は、





あの女もいるのだろうか、彼の傍に、まだ―――……





私は、彼を取り戻せるのだろうか―――……










飛鳥っ――― 飛鳥っ―――、










私っ




















私は奈落を握りしめ、緑の電飾に照らされた回廊を進んだ―――――――――



















































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