巨漢が動いた。
「なっ―――!?」
その巨体からは想像できない速さで、私の眼前に迫る。
私は奈落を前にその背に足を預け、そのまま激突する。
ガッ―――――――――
それは神速の巨大ハンマーを思わせた。
私は振り上げられた拳を両足で受け止め、そのまま横へ飛んで壁に着地する。
顔を上げたとき、男は既に迫っていた。
相手は素手
こちらは真剣
だが、斬らなければやられる――――――――――――!!!
私は、奈落を構えた。
正面から奥義を放つ―――
「鬽神楽―――――――――!!!」
ガツッ―――!
(なっ――――――――――――!?)
男は奈落を素手で受け止めていた。
私は奈落を放棄し、男の股ぐらをくぐった。
背を駆け上り、その耳を取っ手に引き千切るつもりでその後頭部に膝蹴りを打ち込む。
男の頭を飛び越え、正面から奈落を取り戻し、その膝関節へ真横に振り払う。
やはり斬れず―――、私は壁を蹴って飛んだ。
(人間じゃ、ない―――!?)
自動車のフレームでさえ易々と切り裂いた奈落が通らない。
最初の衝撃で斬れなかったのは、掌に何かを仕込んでいたのだろうとも思ったけれど、剥き出しの膝関節に、その皮膚に傷一つ入らない。
奈落が、研ぎ澄まされた名刀が――――――、打ち込む度に私の中でなまくらへと変わっていく。
「ぐふぷふふふっ――――――、オンナァ―――――――――!!!」
巨漢が鬼の形相で嗤った。
『鬼――――――それは鋼鉄を肌を持ち、如何なる刃物も弓矢も通さなかった。
そしてその凄まじい怪力はどんなに硬い鎧も易々と引き裂―――』
(ちょっと奈落、冗談はそれくらいにしてよ―――……)
「ふうぅ―――……」
私は深呼吸をひとつし、無畏の構えをとった。
もう、手加減はしない。