私は目の前に現れた少女の姿に驚愕していた。
ありえない…………、、、
ありえない―――……
ありえないいいいっ―――……!
今、ここに、彼女が立っていることなんて、ありえない―――――――――!!!!!
こともあろうに目の前の少女は、あの座主坊呂久斗と、互角か、それ以上に打ち合っている。
既に何度目かの応酬に彼女は未だ息一つきらさず、そしてその目には絶望さえ見せない。
なんだこれは―――……
なんなのだこれは―――――――――
一体、私の目の前で何が起きているというのだ――――――――――――!?
彼女の魂は消えかかっていたはずなのに―――!!!
ありえない、ありえない、ありえない――――――――――――!!!!
もとより羅城せつらと羅城道孝の魂は一つ。
彼女はその魂は飛鳥へと捧げた―――、私が与えたせつらという名も回収した。
彼女の命は尽きたはず―――――――――!!!
それは自然と消えゆく命―――、漂う魂の残滓。
彼女の寿命は尽き、あとはもう、ほんの僅かしか生きられなかったはずだ――――――
だからこそ放置した。
それがなぜ―――――――――!!!
彼女の振るう剣は黒かった。
どうやら研ぎ澄まされた真剣のようだが、辛うじて呂久斗の肌を裂くには至っていない。
呂久斗が負けているわけでは決して無い、が、
今、目の前で行われる戦いが五分に見える事実は、あまりに受け入れがたい。
(なんなのだ、この力は―――……、二人の体重差は傍目に見ても4〜5倍はあるはず。
にもかかわらず、なんなのだ、この打ち合いは―――――――――――――――)
ラクサラの驚愕の思いを余所に、その眼前では尚も激しい戦いが繰り広げられる。
ただの人間の少女一人が、ユヴィルの操る座主坊呂久斗相手に1歩も退いてない。
少女の刀は幾度と無く呂久斗へと打ち込まれているのに、呂久斗の振る拳が届かない。
「呂久斗―――、
その女、本当に―――……、、、なのか―――?」
私の言葉に呂久斗が動きを止めた。
この問いかけはユヴィルにしているものだ。
奴なら、目の前の少女の正体を看破する事ができるはず―――……。
「う――、つ――、み―――、せ、つ―――、な―――」
「空見―――刹那……?」
呂久斗が頷く。
空見刹那―――……?
それが今の、この女の名だというのか―――……?
もし―――……、
もしも仮に、彼女が本当に、
新しい名を得たとして―――、、
だからといって、それで、どうして生きられるというのだ――――――!?
一体どうすればっ―――――――――
知らない―――、私は知らないっっ―――――――――……!!!
ラクサラも知らぬ、そしてせつら自身気付いていない驚愕の真実――――――
それはせつらのとった衝撃的な儀式
消えかかった魂を抱いた彼女は
発情し、伊本薫をその寝床へと誘った。
そして彼の精子を子宮へ着床させ
己の胎に宿った新しい命は
その父から刹那という名を与えられ
その命を糧に
彼女はその魂を繋いだのだった。
それはこの世で女性のみに与えられた神秘の力――――――
“命の継”
それはもはや罪や倫理という枠を越えた驚異の生存本能
目の前にあの少女が立っていること。
それは実に信じがたい――――――、
実に信じがたい、が―――、まだ間に合う。
もし本当に、彼女がまだ生きているのなら―――、もう一度―――、
今ここで、もう一度殺す―――
彼女が彼と逢う前に―――――――――
羅城せつらは携帯電話を取りだした。
「七種いつきをここへ連れてきなさい――――――!」