せつらは現れた人物に驚き―――……、静かに周囲の気配を探った。
いるのは、彼、一人―――……
彼女は、少し、その身を強張らせた。
彼がここにいる意味が―――、、
彼の意図が―――……、分からない。
「そう硬くならなくても―――、という方が無理があるか。
腕、悪かったね。
痛むかい?」
ふるふる。
せつらは黙って首を横に振った。
数メートルの距離にして、せつらと飛鳥は向かい合っていた。
それきり会話はない。
長い沈黙の後、飛鳥が両手を挙げた。
「今日は、君と話がしたくて来たんだ。
話をするだけ、だ。
勿論、俺一人で、ね―――」
「……………………」
「だから、そう警戒しないで欲しい、なんならずっとこうして両手をあげていようか?」
………………ふるふる。
せつらの許可に、彼は腕をおろした。
「君の名前は確か、空見刹那で良かったんだよな?」
「………………、、、、」
せつらは思案し、思案し、思案し―――……、結局答えなかった。
肯定も否定もしない彼女に、居心地が悪そうに飛鳥は首を傾げ、
「その―――、、、そう―――だな、、、単刀直入に言うよ。
俺は君に訊きたいことがあってきた。
二つ―――、
一つは、君が俺を訪ねた理由。
もう一つは、歌織さんがどうして、君のことをせつらと呼ぶのか、だ」
「………………」
「教えてくれないか?
俺に会いたがっていたのは君の方だろう―――?」
「……………………。
私は―――……、、、、
私はっ―――…………、、、、、
あなたが、す―――――――――」
「それとも―――……、せつらの言うとおり、
俺のストーカーってやつなのか…………?」
「っ――――――――――――!!」
せつらの瞳に涙が溢れていた。
ぼろぼろぼろと、涙を流し、彼女は泣いていた。
声も無く
飛鳥は困ったように頭を掻き―――……そして言った。
「教えてくれ。
君は誰なんだ? 俺は真実が知りたい」
「っ……、、、わ、、、たっ、のっ…………、
私、、しあっ、、、本当、、、のっ、、
名前はっ、、、
羅城、、※※※、、、、、
わたっ、、、、しはっ、、、
あなたを、、、、愛しっ、、、、います――――――――――――」
腕が曲がらず、その涙を拭えないまま、ぼろぼろと泣き続ける少女の顔を、彼は黙って見つめていた。
「君の本当の名前は羅城せつら―――と、そう、言っているのか―――?」
飛鳥の言葉にせつらは何度も何度も頷いた。
泣きじゃくっているため、それはまるで痙攣しているかのようにも見えた。
「それじゃあ、俺と一緒にいる女は誰なんだ?」
せつらは激しく首を横に振った。
飛鳥は一歩、その足を前へ踏み出した。
そしてまた、1歩。
そしてまた、1歩。
彼女に、せつらに、触れる距離に――――――……
彼はそっとしゃがみ込んだ。
泣いている彼女の顎を引き寄せ――――――――――――
その唇をあわせた。