「あす…………か…………?」








せつらは驚き―――、そして、





目を閉じてその口づけを受け入れる――――――、、、





何度か唇を押しつけ合ったあと、彼は離れた。










「………………」










飛鳥は片手で前髪を掻き上げ、そして頭を抱えた。





「どうにも―――……、
 羅刹さんが消えて以来―――、
 俺の回りでは不思議なことばかり起きる気がする―――……」


「飛鳥……?」


「なぁ、教えてくれ―――。
 君はどうして俺のところにきた?何のために?」





「あなたと―――、私の本当の名を、取り戻すため―――」





その言葉に、飛鳥は再び頭を抱える。





「つまり―――、君が言っているのは―――……、
 彼女に自分の存在を奪われたと、そういうことか―――?」





こくこく。





「そんなの、まるでSFじゃないか―――……」



「でも本当なの、信じて、飛鳥―――……、私が本当の※※※だよ……」



「……………………」



「ほんとうだよ……、好きだよ、飛鳥………」



「……………………」





「私は、、、あなたと自分を取り戻すためにきたの。

 その為なら何でもするよ……、、

 その為に強くなって―――、、

 だから、その為に、私は、あの女を殺す―――」



「それは困るな。
 彼女は間違い無く、羅城せつらだ。
 俺はそう確信している――――――」



「だからそれはっっ………………!!!」



「ただ―――……、、 君が最後に寄越したメール……、
 
 最初は一笑に付したが、あれは後から効いてきたよ。
 まるでボディブローのようにじわじわとね。
 
 それからずっと俺の心の片隅にこびり付いてはなれない。
 
 くだらない戯言だ、俺を惑わす巧言だ、
 ストーカー心理攻撃だと、何度も、そう思い込もうとしていたが―――、、、」





「………………?」





それきり沈黙する。





長い、長い、沈黙。






























「ふぅ…………」



飛鳥は深い深い溜息をついた。





「そうだな―――……、やはり、君の言うとおりだ。

 自分の気持ちに嘘は吐けない。

 正直に言おう、俺は君のことがずっと気になっていた―――……。

 そう、なぜだか、、会った事もない、知らないはずの君に、



 俺は惹かれている―――……」










その時、せつらは肘を固定された腕を大きく広げ―――そのまま飛鳥へと抱きついた。



勢いに彼を芝生の上に押し倒す。



腕が地面にぶつかり、彼女は激痛に呻いた。










「お願い、もう離さないで―――、

 
 もう要らない


 もう何も要らない


 思い出してくれなくたっていい。

 
 私の名前だって要らない。


 だからお願い。


 もう一度私を好きになって―――、


 そして


 ずっと一緒にいて、


 もう私を離さないで


 お願いだから――――――


 飛鳥っ、


 飛鳥っ――――――」










「せつ――――――……………な―――……」










「うん。私は空見刹那、そして、今度こそ、本当に、私は、


 あなたのお嫁さんになるの――――――」




















飛鳥は芝生の上で組み敷かれたまま、そっと目を閉じた。










分からない。





一体何が起きたのか。





自分はどうしたらいいのか。




















「あは、ねぇ、飛鳥のおっきくなってるよ……?
 最近してないの……?」



「あ、いや…………」



「私の体は全部、あなたのものだから、好きにしてもいいんだよ―――」





嬉しそうに笑ったせつらの両肩を飛鳥が掴んで、起き上がる。





「いや、今はやめておこう。
 大分前から睨まれているようだしね」


「あっ…………」





言われてせつらも気付く。
遠く、歌織の気配。





「刹那―――、悪いが今日のところは引き上げさせてくれ。
戻ってもう一度せつらと―――……、彼女とちゃんと話をしてみるよ―――」





「……………………」





せつらが俯く。





「正直、君のそういう表情にどうしようもなく苛つく―――……。
 君に苛ついてるんじゃない。
 俺は―――……、君にそういう顔をさせたくないんだ、、、、」





「飛鳥………」





強く掴まれた肩にせつらが頬を赤く染める。





「約束するよ―――、また必ず来る」





「うん、絶対、待ってる、飛鳥」




















飛鳥は静かに公園をあとにした。










せつらはその後ろ姿をずっとずっと見続けていた。



















































第76話:涙
終わり

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  第77話:贄
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