ラクサラは、目の前で呆然とする飛鳥の胸に手を伸ばす。
その胸に手をあて、問いかける。
「タツ―――、聞こえてるでしょう……?
まだ、起きてくれないの……?
ねぇ、応えて―――」
「やめ、ろ…………」
金縛りにあったように、微動だにできない飛鳥が、辛うじて声を絞り出す。
「触れるな…………、、、
私の飛鳥に触れるなッ―――
―――――――――!!」
のし掛かる霊圧を押しのけ、立ち上がった刹那が吼える。
その声に、飛鳥に触れていたラクサラの指がぴたり、と止まった。
そして、彼から離れる―――。
(今のは真言―――……!?)
真言―――それはこの世の本当の姿を示す、真なる言葉。
その言葉の持つ霊威は、日本言語の比ではない。
しかしなぜ―――?
ラクサラは、刹那が真言を紡ぐことよりも、それが自分を脅かすほどの霊威を放つことが不思議でならなかった。
しかも霊圧に押され転がったはずの彼女が、今や平然と立ち上がっている。
睨む刹那を、ラクサラは不快そうに見つめた。
「そうか―――……、、
お前は、龍門を開いていたのか――――――、、、
ああ、本当にこうるさい娘。
一時は感謝もしたけれど……、本当に煩わしいよ――――――。
もうこれ以上―――、お前を生かしはおけないね。
確か――――――、
お前は灰になってでも彼と共にいたいと望んだのだったね―――?」
「何、を―――……」
「その願い、私が叶えよう―――、
命約に従い―――、
灰になるがよい―――、空見刹那」
ラクサラはその白い腕を伸ばした。
その先に刹那を捉え―――――――――
ボッ――――――――――――
突如、刹那の体が燃えさかる炎に包まれた。
「せつらああああああああああああっ―――――――――――――――!!!!」
その光景に飛鳥が絶叫する。
しかし動けない。
見えない束縛を―――、解けない。
目の前で燃える愛しい女を前に、何一つ、
ザンッ――――――――――――――――――!!!
凄まじい剣圧が、燃える刹那を払った。
歌織の振るう神楽が、刹那を包む炎を薙ぐ。
が、消えない――――――!!
ラクサラの喚んだ炎は衰えず、刹那を包む。
「せつらちゃん―――!!」
駆け寄ろうとした歌織をラクサラの戒めが縛り付ける。
ゴオオッ―――――――――ゴオオッ―――――――――
「せつらああああああああああああッッッッ―――!!!!」
「せつらちゃん―――!!!」
顕現したラクサラの力の前に、飛鳥と歌織は何一つできなかった。
彼らに許されたのは、
せつらの名を叫ぶ事と、
轟轟と燃えさかる炎を、見つめることだけ―――…………
炎は消えず、刹那の肉体は燃え続け、やがて灰となって崩れた――――――