「あはははははっ―――――――――――――――
人間風情が私に逆らうから、そういうことになるんだよ―――!!!」



ラクサラは額に手をあて哄笑していた。
しかしその顔はどこか悲痛に歪んでいる。



力はあれど願いは叶わず、



想い人、一人救えない。



力を持たぬ人を蔑みながら、その人に強烈な劣等感を抱いている。



人として生まれ、人として生きられなかった弱者―――、それが彼女だった。










「キサマああああああああああああああああああああああっ――――――!!!」





飛鳥が憤怒にラクサラの重圧をはね除ける。
一切の容赦なく、殴りかかっていた。


しかし、その拳をラクサラが正面から受け止める。
その間には絶対的な霊力が立ちふさがる。





「いい加減に目を覚ませ、タツ―――、
 お前はもう鬼の呪縛から解き放たれているのだぞ―――」


「ぐああああああああっ――――――――――――」





ラクサラの放つ真言が飛鳥の心臓を締め付ける。
が、飛鳥は更に蹴りを放つ。

それを弾き、ラクサラは彼の首へその腕を伸ばした。

彼女の細い指が、飛鳥の首を締め上げる。





「タツ、目を覚ませ、タツ――――――――――――!!!」





次の瞬間、彼女は飛鳥を放って距離をとった。


直前まで、彼女のいた場所に、神剣 神楽―カミクラ―が振り下ろされていた。










「あなたの申し出を受けるわ、弟クン」



それが共闘だと理解し、飛鳥は首を摩りながら頷く。
目の前にいる女の力は得体が知れず、明らかに人のものではない。

二人がかりなら倒せるとも思えないが、一人よりは可能性がある。

その時、二人にあったのはただ殺意。
せつらを殺したこの女への―――、復讐心。










飛鳥はまるで欠伸でもするように大きくその口を開けた。
両拳を握りしめ、その全身を震わせる――――――、


それは変貌、









許さねぇ―――!!!





せつらの名を奪い、自分の傍に居続けた女を





せつらを苦しめ続けたこの女を





せつらを殺した女を










オレハッ―――――――





















「グアアアアアアッ―――――
――――――――!!!」











咆哮と共に飛鳥が跳ぶ。


突き出した拳が空を貫く―――、

ラクサラの放つ霊圧を鬼気ではね除け、その拳を繰り出すが、当たらない。



その足に光の輪が絡みつく。



鬼と化した飛鳥を、ラクサラの戒めが縛る。





ガンッ―――、ガンッ―――、ガンッ―――、ガンッ―――、





それは幾重にも連なり、飛鳥の自由を奪う。










「ふぅっ―――……」





歌織が小さく息を吐いた。





斬れるとは思えない―――、でも、斬る―――――――――





いや、斬る―――――――――――――――!!!





ラクサラの放つ電撃を躱し、距離を詰める。


余裕に笑っていた女の顔から笑顔が消える。





ガッ―――――――――――――――――――――





疾風のごとき速さで、その懐へと潜り込み、振り上げた神楽―カミクラ―は、不可視の壁に遮られた。が、ラクサラの反応よりも早く、その背後へ回り込んで神楽を振るう。
しかし届かずラクサラが腕を払うと、歌織は何メートルも地面を転がった。


離れ際に投げつけられた神剣を掻き消し、ラクサラは地面に這いつくばる歌織の姿に憐れみの眼差しを向けた。



「哀れなものだ―――、私はもとより剣など知らぬ。
 しかし人の身ではどんなにその道を極めようと、その刃、私には届かぬ―――」



ラクサラは倒れたままの歌織に構わず、戒めの中に藻掻く飛鳥へと近づいた。



「グオオオオオオオッ―――!!」


「タツ、私だよ―――……、サラだよ―――、
 まだ、分からないの―――?」


「グオオオオオオオオッ―――――――――――――――!!」



飛鳥はただひたすらに、目の前の女にその牙を届かせようと藻掻く。
しかし暴れる度に、その光の束縛は更に強く、深く彼の肉体へ食い込んでいく――――――。



「タツ……、、、」



その様子にラクサラは深い溜息を吐いた。




















「哀れなのは貴女の方よ―――、ラクサラ」





再び立ち上がった歌織の言葉に、ラクサラは眉を顰めた。





「私は、人の痛みが分からない貴女に憐れまれたくなんて無い―――……

 あなたは忘れられる悲しみを知っている。

 なのにあなたはそれをせつらちゃんに押しつけた。

 人は悲しみを知ってるから優しくなれるのに――――――」





「…………」





「優しさこそ強さ―――……、
 悲しみを忘れて得る強さに意味なんて無いっっ――――――!!!
 あなたは弱すぎるのよ、ラクサラ―――!!!」





「女、そんなに死に急ぐか」





ラクサラがその端正な唇を歪め、明確な怒気と殺意を放つ―――――――――





が、同時にその額に一つの冷や汗が伝った。





歌織の放つオーラに、プレッシャーを感じていた。





(剣の道など知らぬ、しかし――――――)










「口では何とでも言えるよ、神楽歌織。
 しかし、届かぬ刃ほど意味のないものもあるまい―――?」





「届かせるわ」





「ならば、くるがいい――――――」










ラクサラの姿が空気に溶ける。






























無畏の構え―――――――――





神楽―――それは神を護るために生まれた剣。





それに対するは、人であろうと化け物であろうと、





そこには一切の畏れなく、





どこまでも穏やかな心だけがある





たとえ相対するが―――ラクサラであったとしても―――




















神楽―カミクラ―が光を放つ―――――――――





それは歌織の魂の輝き





振るうは神楽剣術最終奥義





神武威






























光が――――――――――――































「がっ―――はっ―――…………」





歌織がその口から大量の血を吐いた。





その腹をラクサラの手刀が貫いていた。










歌織は剣を振れなかった。





いや彼女は確かに振った。





しかし振り切れなかった。





一瞬の躊躇いが勝敗を決していた。





彼女は斬れなかった。










目の前に現れた―――










空見翔の姿を――――――……






























「この程度の幻影に惑わされる小娘が、よくも吠えた――――――」










ラクサラが手刀を抜くと、歌織の体はそのまま地面へと倒れた。



















































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