せつらの振るう刀に、歌織の体が枯れ葉のように吹き飛ぶ。





せつらの剣はあまりに強く、あまりに重かった。





その一撃一撃が、凄まじい威力を放つ。





まるで嵐の中揺れるイカダのように、翻弄される。










それはあまりに一方的だった。
歌織は全ての攻撃を受けきっている、が威を殺しきれずその体は壊れていく。



既に息を切らしている歌織に対し、無尽蔵に命を吸い続けるせつらは息一つ乱していない。



「せつらちゃん!!
 力に流されては駄目―――――――――」





「うるさいっ―――うるさいっ―――うるさいっ―――!!!
邪魔すんなっ―――!!!!!

あの女を殺せば全て終わるんだ!!
あの女を殺せば全部っ全部っ全部っ――――――――
――――――――!!!」












そう、あと少し―――――――――、










あと少しで取り戻せるんだ―――――――――










あの幸せな日々を―――、










また、飛鳥と一緒にいられるんだ―――――――――










彼と一緒に笑って、










彼と一緒に泣いて、










いっぱいキスして、










いっぱいえっちして、










いっぱいいじめてもらって、










およめさんになって――――――――――――――――










なにもかも、とりもどすんだ―――――――――!!!!










ぜったいに、とりもどすんだ――――――――――――!!!




















その邪魔を、










「邪魔をするなあああああああああああああああああああっ
―――――――――!!!!
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ――――――――
―――――――――!!!!!」











せつらが、雄叫びをあげ、渾身の一撃を放つ―――――――――!!!





















歌織はその瞬間をただひたすらに、待ち続けていた。





何十回もの打ち合い中、ただひたすらにその瞬間だけを――――――、





何ヶ月もの間―――、毎日の様に剣を合わせ続けた、師弟同士の戦い。





彼女は頑張って、頑張って強くなった。

私が教えた。

そして、私を超えた。



彼女は遂に、神武威でさえ――――――……










歌織は体が壊れていくのを感じながら、頬笑んでいた。




















彼女はもとよりせつらを殺すつもりなど無く




せつらを倒すつもりなど無かった




せつらに勝つ気も、無かった





彼女は、生き残るつもりさえ、無かった―――――――――











狙うは 魔剣 神喰―カミクラ― その刀身をへし折ることのみ―――――――――










せつらの、渾身の攻撃にあわせたカウンター










放つ、神武威―――――――――――――――――――――――










(ごめんね、せつらちゃん―――……)










ガッッッッ――――――!!!!!












光輝くその切っ先が、闇の刀身を打ち砕く――――――――――――











魔剣 神喰―カミクラ―はその根本から折れ、
砕け散った刃が歌織の左腕を切断し、耳を削ぎ落とし、肉を裂き、無数の刃がその体へと食い込んだ。










「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ―――――!!!」












歌織はその全身から血を噴き、吹き飛んだ。
その凄惨な姿にせつらが絶叫する。





「いやっ、歌織さんっ、歌織さんっ―――!!」





倒れた歌織に駆け寄り、血に塗れたその体を抱き寄せる。





「いやっ、いやっ、いやっ―――、いやだよぅ、歌織さんっ――――――」





息も絶え絶えな歌織は、笑っていた。





「はぁっ―――、、はぁ、、、っ、せつ……、ちゃん、お願い……、だから、、
 その剣、捨て……、くれる……?」





せつらは慌てて折れた神喰の柄を投げ捨てる。





「歌織さん、ごめんなさい、わたし、わたしっ―――……」





「泣か……いで―――……、せつらちゃん、、、


 ほんとに、……、気にしなくて、、いいんだよ―――、、


 言ったでしょ―――、私は生きて……、きたんだよ―――、


 きっと、このために……、生きて………」





「いやっ、いやっ、歌織さんっ―――!!
 死んじゃだめっ――――――!!!」





突き刺さった魔剣の破片が歌織の生気を吸い尽くす。
その命が、消えていく。











せつらははっと顔をあげ、振り向いた。










遠く、蹲っている、一人の女を―――……










せつらに見られ、ラクサラはびくりとその肩を震わせた。





「お願い……、歌織さんを…………、たすけて…………」





せつらは懇願した。


その瞳から涙を溢れさせ―――、初めて神に祈った。


己の人生を弄び、飛鳥を奪い、


殺害するための魔剣まで錬成した、憎き相手に――――――――――――










ラクサラは、ゆっくりと立ち上がった―――……。
そしてせつらの、歌織の元へと歩き出す。





血まみれの歌織を抱き、泣きながら懇願する少女の傍に、彼女は立った。





「私と共に往くか―――……、空見、歌織――――――……」





ラクサラの言葉に、歌織は笑顔で頷いた。





「えっ―――、待って、歌織さんをっ―――」





制止しようとしたせつらの頬に、歌織の右手が触れた。
その手に最早色は無かった。





そしてゆっくりと首を振る。










「私―――……は―――……、……れ、に―――、、逢いたい―――……」










言葉を失ったせつらの腕の中で、










歌織の体が、光に溶けてゆく――――――――――――










そしてラクサラもまた










それは煌めく無数の灰となって――――――、天へと舞い上がる――――――































腕に抱いた温もりが消えていく―――……






























蹲り、俯いたままの少女の体を―――――――、






























空見飛鳥はそっと―――、その胸に包んだ。



















































最終話: 灰 
終わり

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  エピローグ
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