1年後―――――――――










冬が終わり、春へと変わる3月―――





輪光にある新築マンションで、二人の少女が忙しなく動き回っていた。
テラスへ続く大きなドアは開放され―――、そこから春の光が煌煌と部屋を輝かせている。





二人はテーブルの上に皿を並べ、丁寧に料理を盛りつけていく。



今日は隣に住む男の子の誕生日パーティなのだ。



ちなみにバースデーケーキは二人の手作りである。










「こんな感じでいいかな、せつらさん?」



「うん、素敵♪」





時刻は11:30―――、大方の準備を終え、予定の時間には充分間に合いそうである。





ぴんぽーん――――――





呼び鈴に、淡いベージュの髪をツインテールに結んだ少女が、インターホンへと走る。
ディスプレイに映ったのは、彼女の親友の姿。





『みことー、きたよー!』

「悠理〜〜〜! 今あけるね、入って、入って―――!」





程なくして彼女たちの部屋にやってきたのは、柔らかな雰囲気を湛えた少女と―――、
一見怖そうな一人の青年。





「やあ、せつらちゃん久しぶり。
 はい、これ、差し入れ―――」


「お久しぶりです黎さん。
 差し入れって、これワインじゃないですかー!
 私たち未成年なのに!」


「せつらさん、お酒弱いから、私が全部飲んじゃう―――!」


「もう、みことなんて酒乱のくせに……、、私だって少しは飲めるし〜〜!」


「うわー、あっかるーい!日当たり良いね―――!
 何度来ても素敵な部屋だねー!」


「何言ってるの、悠理たちは一軒家でしょー!」


「でもほら、二人じゃなんか広すぎるっていうかー。
 みことたちももっと遊びにきてよー」


「えー、私のみことをイケナイ遊び・・・・・・に巻き込まないで(笑)」


「ちょっ―――(笑)」


「あ、そろそろ主役を呼んだほうがいいんじゃない?」


「あ、じゃあ私呼んでくるね」





せつらが玄関へと向かい、すぐ隣の部屋の呼び鈴を鳴らした。

なかなか応答のない住人に、彼女は容赦ない連打をかます。





『お、せつら?
 なんかようか……?
 もしかして発情した―――?』



「ちょ……、、、薫―――? まさか眠ってたわけじゃないよね?
 今日薫の誕生日パーティやるって言ったよね?
 もうすぐ時間だよ?」



『あ――――――!!!
 そういえば……、
 ういうい―――、すぐいく、30秒で。』





こっちは朝から準備してるのに寝てたなんて信じられない……。

一言怒ってやろうとせつらが玄関の前で待ち構えていると、扉はすぐに開き、その髪に笑えるほど大きな寝癖をつけた薫が現れた。



「寝癖つけたままとか格好悪―――」

「おはようううう――――――せつらぁああ――――――!!」



彼はいきなりせつらに抱きつくとその首に舌を這わせる。
ちなみにこれがいつも通りの彼の挨拶である。



「ちょおおおっ―――」



せつらはほとんど突き飛ばすような形で薫の腕から逃れると、ポケットから素早くウェットティッシュを取り出して首を拭く。
こちらも手慣れたもの。





「もう、みんな来てるんだからね―――!」

「おう!」





二人は、せつらのみことの暮らす部屋へと入っていく――――――。




















「それで、3人はどこの大学受けるか決めたの〜?」


3人―――とは、せつら、みこと、薫、のことで、全員輪高中退組である。


「んー、私とみことは結構頑張ってるんだけど、
 薫がねー」


「受験勉強とかさー……、なーんか、こう、興味ねー科目多いんだよなぁ…………、、」


「じゃあ大学行かなきゃいいのに……」


「いや、行く。
 大学の講義はそれなりに興味あるしー……」


「言っておくけどー、私とみことが受かった一番いいとこいくからね?
 薫はおまけだから、薫には合わせないよ?」


「分ーってるって、
 つーか、せつら、今日の主役に容赦なさ過ぎだろ……。
 あれ?これ、最近どこかで食べたような……、覚えが……、」


「昨日差し入れで持っていってあげたでしょ!
 一晩で忘れるとか信じらんない!」


「―――って、じゃあこれ昨日の残り物かよ(笑)」


「あははっ(笑)」










今はせつらとみことが、輪光で同居―――、そしてその隣の部屋には株をやめた伊本薫が一人暮らしをしている。

東江黎・悠理夫婦は少し離れた場所に一軒家の新居を設け、暮らしている。










「それはそうと薫くん、あいつの消息は何も掴めないのか?」


食後のバースデーケーキを早々に食べ終わり、コーヒーを飲みながら訊ねる黎に、薫は首をすくめた。
あいつ、とはせつらが今も待ち続けている空見飛鳥のことである。


彼はラクサラとの戦いの後、警察に出頭した。
が、その全ての罪状において証拠不十分とされ、即日解放された。

しかしその後、彼は築き上げた財産の全てを慈善団体へと寄付し、その姿を消したのだった。










「飛鳥も、今月誕生日だからね―――……」



せつらの言葉に、みことが立ち上がり、戸棚へと向かう。



「じゃーん!!」



そして1ピースのケーキをせつらの前へと置いた。

こじんまりとしたケーキのプレートには『飛鳥誕生日おめでとう』と書かれている。



「え?みこと、これ……」


「せつらさんの為にこっそり作って置いたんだよ。
 飛鳥さんの誕生日も、お祝いしたいかと思って」


「ううっ、ありがとう、みこと……」





涙を零して喜ぶせつらに、薫がぼやく。





「つうか、みことを嫁に貰うやつ幸せすぎだろ……。
 なあ、みこと、せつらなんてやめて俺の彼女にならない?
 その頭にもうちょっと大きなリボン付けてさ、
 今日の俺の誕生日プレゼントにしてくれてもいいんだぜ?」





薫の軽口にせつらが涙を拭って右手をあげた。

そしてその中指を親指の腹へと引っ掛ける。





「ちょっ――――――、冗談、冗談だって!!」





ケーキを食べていた薫が椅子から転げ落ち、一瞬で部屋の隅まで逃げたその様子に、みんなが爆笑した。





しかしやられる側は、笑い事ではない。





せつらのデコピンは半端無く痛いのだ。





それはもう、本気の、本気で、逃げたくなるくらいに――――――!!!




















「探す必要なんてないよ―――、、飛鳥は絶対、戻ってくるから―――」





せつらがテラスの外に広がる空を見つめながら呟いた。

皆もつられて外を眺めた。

広がるどこまでも青い、うららかな春の空。

テラスの柵にとまっていた数羽の鳥が空へと飛び立った。






























私は今になって思う―――……、彼は正しかった。



彼は私の想いを救ってくれた。



その困難が必ずしも―――スワッピング―――である必要はなかったけれど、



私の、この自身の身さえ焦がす恋心は、彼への想いは―――、



私たち二人の絆はあのお陰で、



ようやく、



私の気持ちに追いついてくれたのだ。





私たちの絆は共に困難を乗り越える事で強くなる――――――。





でも私は彼に無理をさせてしまった。



だから今度は私が彼を―――、分かってあげたい。





そうしたら、私たちはもっと、もっと強くなれる―――――――――





そう思うから―――




















今はまだ、彼にはもう少し、もう少しだけ時間が必要なのだ。





今はまだ、一緒にいられなくても、彼は必ず戻ってきてくれる。





そしたら、もうずっと一緒にいられるに違いないのだ。





だから私は心配なんてしてない。





だから私はこの輪光で、彼の帰りを待ち続ける。





こうしている今も、離れている今も、彼との絆は感じている。





それは決して揺らがない。










みことのことを納得して貰うのが――――――





ほんの、ちょっぴり大変かも―――だけど、きっと大丈夫。






























私はいつまでも、ここで貴方の帰りを待ってるよ―――、飛鳥。






























せつらは青い空に頬笑んだ。










今、この世界のどこかで、きっと彼もこの空を見つめている―――――――――、










そう信じて――――――


















































ラセツ



― 灰 ―



終わり



















































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  あとがき
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