バタン、と、乱暴にドアを閉める音が、居間の実花にまで聞こえてきた。
それは風呂場のガラス戸を閉めた音だ。
それから、ドカドカと古い家の廊下を一切の気遣いなく歩く音が近づいて来る。
――来るわ、来るわよっ。
思わず、実花は身構えた。
そして。
「あー、すっきりした」
障子が引かれて現れたのは、世間で『闘将』などと言う二つ名をいただく兄である。
が。
とても今の神谷からは『闘将』の気配は感じられない。
身につけているのは、首にかけたタオルと、トランクスのみ。
しかし、タオルを首にかけてプラプラ歩くその姿は、完全にどこぞのオヤジである。
実際、これが冬になれば『トランクス一枚』が『着古したジャージ』になるだけなので、その印象はあながち間違いとも言えないだろう。
例えどんな御大層な肩書きを神谷が持っていたとしても、友達にどれだけうらやましがられようと、実花にとっては兄は単なる兄なのだ。
もとい、単なる兄ではない。
昔も今も困った兄なのである。