10月






 10月に入り、斉木が復帰する。
 シーズンも第4クオーターに入り、昇格争いが熾烈を極める時期である。
 この時期に斉木を欠いて勝ち抜くことがいかに困難であるか、それは、首脳陣も選手も認識していた。
 勿論、完治はしていない。
 この短期間で完治するような性質の故障ではない。
 ただ、一時期の日常生活にすら支障をきたすような最悪の状況を脱していたことから、主治医やトレーナーもGOサインを出した。
 無理をしないことを条件としたが、提示した方は半ば諦めの境地である。















 10月最初のホームの試合が、斉木の復帰戦になった。
 復帰戦といえどもベンチスタートだ。
 後半も半ばを過ぎて0-0、スコアレスドローがちらつき始める。
 スタジアムを埋めるサポーター達が苛つき出したその時、メンバー交代を知らせるボードが差し上げられる。
 そのボードに表示された「23」の文字に、サポーター席から歓声が上がった。
 そして、ボールを持っていた芹沢が大きくサイドへボールを蹴り出し、斉木がフィールド内に駆け込むと、場内アナウンスをかき消すほどの拍手をもって迎えられた。
 移籍をしてたった1年であるが、斉木がサポーターの心を掴んでいる証拠である。
 ピッチに立った斉木は、軽く手を挙げてサポーターに応えた。
 しかしその笑顔は、よく見るとどこかぎこちなかった。
 一ヶ月も欠場した後の初めての公式戦なのだ。
 いくら斉木の神経が図太くても、緊張の一つや二つして当然だ。
 敵チームのスローインに集中しようとしていると背後から肩を叩かれ、振り向けば芹沢が立っていた。
 斉木が何か言うより先に、芹沢がにやりと笑って言った。
「斉木さん、後ろは任せますからね」
 信頼してますから俺はもう守備を考えませんよ、と、芹沢が嘯く。
「んなことを言ってる暇があったらさっさとポジションに着け!」
 斉木に怒鳴られながら、芹沢は笑いながら自分のポジションへ駆けて行く。
 そして斉木は、心の中で感謝した。
 腹から声を出したことで、随分緊張が解けた。
 芹沢は斉木の緊張を見て取って、声をかけに来たのだろう。
 何より、任せると言われたのだ。
 斉木は芹沢の信頼に応えなければならない。





 DFの選手と交代で入った斉木は、本来のポジションである左サイドではなくボランチのポジションを取る。
 途端、それまでバタついていた守備が落ち着いた。
 斉木はそれほど大きな動きは見せないが、ここぞと言うところで中盤の底を引き絞り、突破を阻止する。
 ロングボールには3バックのラインをコントロールして対処する。
 ボールを奪えば間を置かず前線に送り出す。
 斉木の攻守におけるバランス感覚が、チームにリズムを作り出す。
 そして、斉木に言った通り、守りを気にしなくなった芹沢がポジションを押し上げ、2トップのFWと共に猛然と相手ゴールに襲いかかる。
 ドローで終わらせるつもりなど、芹沢には更々なかった。
 勝ち点1と3では天と地ほどの差がある。
 何より、斉木の復帰戦は勝利で締め括らねばならない――。





 結局、斉木の復帰戦は芹沢がロスタイムに値千金の1点をもぎ取り、勝利する。















 その後の2節を斉木はサブとして出場、連勝記録を伸ばす。
 そして復帰4戦目に、斉木はスタメンとしてピッチに立った。
 しかし、後半2点目を取ったところで交代する。
 まだやろうと思えば充分に続けられるし、斉木自身、最後までピッチに立っていたい思いは強いが、先々のことを考えれば当然の処置である。
 ここで特筆すべきは、斉木が退いた後も大きく守備が乱れなかったことだろう。
 ただ斉木の指示を受けて動くだけでなく、斉木のプレーから学び、吸収し始めているのだと思われる。
 それは、何より大きな収穫だ。



 10月の残りの試合は、そのような選手起用が続けられ、結果、大きく勝ち越してJ1昇格に王手をかけた。













9月
11月前半







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